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●2026年6月号
■ 軍拡路線からの転換を
    足立 康次

■1. はじめに

米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃はホルムズ海峡の実質的封鎖に至り、世界的な原油の供給不安と関連商品も含む価格上昇を引き起こした。2026年4月の米国消費者物価指数は対前年同月比で3.8%上昇した(約3年ぶりの伸び)。ガソリン代の高騰がその原因である。
   
日本は、ガソリンをはじめとする燃料油に緊急支援が行われていることから、3月の消費者物価指数は対前年同月比1.5%上昇にとどまっているが、3月19日から開始された緊急支援の予算は6月には枯渇するとされ、その後の展開は見通せない。政府は供給不安の払拭に懸命だ。
   
だが、なによりも見逃せないのは、米国・トランプ政権による国際紛争を武力によって解決する姿勢が、世界各国の軍拡競争に拍車をかけていることである。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が4月に発表した報告によれば、2025年の世界の軍事費は前年から2.9%増加。過去最大の2兆8870億ドルになり(4.28日経)、経済の軍事化ともいえる様相を呈している。高市政権もその例外ではない。以下、高市政権が進める武器輸出の緩和による軍事産業育成政策の現状と問題点を明らかにするとともに、流布される安全保障上の脅威の背景を探り、軍拡によって利益を得るのは軍需産業のみであることを明らかにしてみたい。
   
   

■2. 特別国会から見える高市政権の戦略

「次(2027年)の自民党大会を改憲発議にめどをつけた状態で迎えたい」と、2月の自民党大会で宣言した高市首相は遮二無二改憲を進めている。高市政権が、今特別国会で重要広範議案と位置付ける、国家情報会議設置法、防災庁設置法、健保法改正案、「稲田の乱」で一躍注目された再審制度の見直しを含む刑事訴訟法改正案の4つのうち、健康保険法改正案は、法律だけ通して、概要は後で決める手法であるが、軍事費ねん出の一環なのは明らかだ。軍事費増と社会保障費の削減は表裏一体の関係にある。
   
今後の改憲を進める第一歩となるのが、縦割りで収集される情報(インテリジェンス)を一つに集約するが眼目の国家情報会議設置法である。情報を一手に握ることは、時の権力者にとって常に追い求める悲願である。
   
高市政権は4月21日、「防衛装備移転3原則」において殺傷可能兵器の輸出を原則禁止してきた5類型の撤廃を閣議と国家安全保障会議で決定し、殺傷兵器の輸出を解禁した。これには、2つの狙いがあるとされる。1つは、「同盟国・同志国」と装備品を融通し合い、防衛力を高める。2つは、国内の防衛産業の販路を広げて生産基盤を拡大し、有事の継戦能力を確保することだ(4.21日経)。
   
同時に見直された運用指針では、輸出先を、安全保障協力関係にある国(「国連憲章に適合した使用を義務付ける国際約束の締結国・17カ国」と定めた。しかし、「国連憲章に適合した」と判断するのは誰か。米国は国連憲章第五一条がみとめる自衛権行使とは言えない攻撃を、イスラエルとともにイランに行い、戦闘状態に入った。その意味では、「紛争当事国」であり、かつ「国連憲章に適合」しない米国には、殺傷能力を有する武器を日本が輸出することはできないはずである。だからこそ、高市首相は今回の米国によるイランへの攻撃を、「国際法違反だ」と言わない。
   
逃げ道はつくってある。紛争当事国への兵器輸出を禁じている条項には「我が国の安全保障上の必要性を考慮して特段の事情」がない限り、との例外規定があるからだ。この規定を使えば、対象国は無制限に広がる。さらに問題なのは、米国ですら、一定額以上の武器輸出には上下院での議決が求めれられるにも関わらず、日本ではこの武器輸出に関して、国会に事後通知されるのみで事前に関与の余地がないことである。
   
小泉進次郎防衛相はこの連休中にフィリピンを訪問し同国防衛相と会談、フィリピンへの護衛艦輸出に関する実務者会議の設置で合意した。日本とイスラエル両国による外務・防衛当局間協議は3月に5回目の会合を開いたことも警戒すべきだろう。商談は進む。
   
   

■3. イランの核開発許した第1次トランプ政権

高市首相は5月2日、訪問先のベトナムで新外交政策についてスピーチした。高市氏は、この中で、師と仰ぐ安倍元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想を踏襲し、「この地域において、『自由』、『開放性』、『多様性』、『包摂性』、『法の支配』に基づく国際秩序を築くため、日本として果たすべき役割を変わりなく、いえ、今まで以上に主体的に果たしていく」と述べた。
   
この「法の支配」という言葉はそのまま、高市政権の対米外交への批判として高市氏自身に向けられなければならない。高市首相は、ロシアによるウクライナ侵攻は武力による現状変更であり、国際法(国連憲章)に違反すると言いながら、1月3日の米国によるベネズエラ侵攻とマドゥロ大統領夫妻の拉致、今回のイラン戦争を「国際法違反」とは言わない。欧州各国は後述するようにイラン戦争については米国を突き放す発言を行うものの、米国への明確な批判は避ける。世界はこの二重基準に辟易している。
   
イスラエルのネタニヤフ政権にとってこのイラン戦争は、自国安全保障(イランの「無力化」)と汚職による訴追を逃れるための自己保身が目的だろうが、米国にとっての戦争目的は1つではない。報道されているだけでも、

  1. イランによる核開発の阻止、
  2. 中東の「安定化」と西半球への回帰、
  3. 中国へのけん制、
  4. 石油奪取(価格支配力の確保)、
  5. 軍需産業の利益、

などがある。
   
それぞれについて簡単に背景を探ってみる。第1に、イランによる核開発の阻止は、トランプ政権にとってまさに天に唾するお題目だ。1979年のイラン革命で一時原子力開発を中断したイランは、1985年から原子力活動を再開したが、2002年には核兵器製造につながるウラン濃縮が国際社会から問題視され、2015年英仏独米中ロの6カ国とイランとの間でウラン濃縮活動の停止を含む核合意がなった。ところが、2016年に発足したトランプ政権は、オバマ前政権が主導したこの核合意を嫌い2017年5月、この合意からの一方的離脱を宣言。この間にイランは核開発を進め、「イランが保有している推定440キロの高濃縮ウラン(10個前後の核兵器をつくれる量)の大半は米国の(核合意からの)離脱以降に濃縮されたものだ」(4.29日経)という。第1次トランプ政権による核合意からの離脱の罪は重い。
   
第2の目的、中東情勢の「安定化」はどうか。第2次トランプ政権の国際戦略とされる「国家安全保障政策(25年12月発表)」を見ると、米国は、西半球と位置づける南北のアメリカ大陸について、この地域への競争相手による軍隊その他脅威となる能力の配置を拒否する。その一方で、中東においては、湾岸諸国、その他アラブ諸国、そしてイスラエルとの同盟関係の再構築が謳われている。その意図するところは、ガザにおいてハマスを「無力化」し、残るイランを無力化すれば、イスラエルとアラブ穏健諸国との連携で中東は安定する。これが第2次トランプ政権のシナリオだ。中東における軍事力行使の拡大には、トランプ氏にもためらいもあったようだ。しかし、このトランプ氏の背中をイスラエルが押したようだ(3.29日経)。イランとの交渉を継続するトランプ政権に、イラン攻撃への決断をせまるかのように、イスラエルは2025年6月13日、イラン各地の核関連施設を含む数十カ所を空爆した。この先制攻撃の「成功」を見たトランプ氏は変心し、6月22日の米軍によるイランの核施設攻撃に至ったという。この戦闘自体は10日ほどで停戦となったが、以降、核合意の当事国である英独仏が、「イランは2015年にイランと米英独仏中ロが結んだ核合意に違反している」として、8月末に合意で停止した国連制裁を復活する手続きを始め、核兵器を持つ意思はないとのイランのペゼシュキアン大統領の主張を無視して、国連の対イラン制裁が再発動された。そして、2月28日の先制攻撃である。本稿執筆時点では停戦が継続中だが、米国の提案に対して、5月10日イランが事実上の拒否回答を行ったと伝えられている。イランは持久戦に持ち込む構えであり、トランプ政権のシナリオ通りに中東が安定することは望むべくもない。
   
第3の目的、中国との関連はどうか。中国のエネルギー構成をみると、エネルギー自給率は約75%(中国国家統計局・2024年)。エネルギーに占める石油の依存度は約18%(同)と低い(火力の多くが自給可能な石炭である)。中国はその他を、風力、水力、原子力、太陽光で賄う。原油の調達先も中東全体で5割を超えるとみられるものの、ロシア、ブラジルなどに分散させている。石油の多くを輸入に頼る中国にとって、その価格高騰が経済に与える影響は大きいと思われるが、相対的に見ればエネルギー自給率約15%(2023年)、原油の9割は中東から輸入しているとされる日本(2025年)ほどではない(数字は資源エネルギー庁HPより)。中国の中東における原油調達先に占めるイランの割合が大きいことは周知のことであるにもかかわらず、5月14〜15日に行われた米中首脳会談でも、米国はこれを中国にやめさせる約束を取り付けることはできなかった模様である(少なくとも公式の発表はない)。
   
第4の目的、石油の支配もそれが可能であるならば、米国の狙いとしてうなずくことができる。米国は世界最大の産油国であるが、同時に世界第2位の石油輸入国(2024年)でもある。冒頭述べた通り、ホルムズ海峡の事実上の封鎖で米国のガソリンは危険水域とされる1ガロン=4ドルを突破し、4月時点で4.5ドルに達しているという。ホルムズ海峡の管理権をイランから奪い取り、米国が握ることは、中東の石油を産出、搬出の両面で支配することであり、世界の石油価格を支配する力を手に入れることとなる。だが、これはまさに20世紀の帝国主義の発想であり、かつ人口が9000万人を超え、面積が日本の4.4倍(外務省HPより)のイランを米国が支配する、というあり得ない「勝利」がなければ達成することはできない。
   
第5については、冒頭であげた軍需産業の売り上げ増がこれを如実に物語っている。
   
   

■4. 成長戦略・軍拡路線のあい路

「米国第一」を掲げるトランプ政権は、「同盟国」に対して今まで以上の軍事費負担を行うよう圧力をかけている。NATOは2025年6月の首脳会議で、加盟各国が軍事費をGDPの5%まで引き上げることで合意した(5%のうち3.5%を国防費、残りをインフラ整備など関連費用に充てるとされる)。実施期限は2035年。米国をNATOに引き留めるための代償だが、米国がNATOに留まる保証はない。韓国の李在明大統領はトランプ氏との2025年10月の会談で、早期に軍事費をGDP比3.5%に引き上げると表明した。台湾は今年8月、防衛関連歳出を22.9%増、GDP比3.23%に引き上げる2026年度予算案を発表した。英国、オーストラリアもこれに続く。日本政府は公式にはトランプ政権からの5%(3.5%)への引上げ要請を認めていないが、これを信じる人はいない。
   
高市政権は防衛費として2025年度当初予算に補正予算を合わせて約11兆円を積み上げ、改定前の安保3文書が27年度での実現として掲げたGDP比2%を2年前倒しで達成した。GDPが変わらないと仮定しても、GDP比3.5%は金額にして約19.5兆円に上る。いったいこれだけの軍事費負担に日本の財政は耐えうるのであろうか。
   
高市政権の積極財政を警戒する債券市場では長期金利(10年物国債の利回り)、上昇を続け、5月18日には一時2.8%台となった。2026年度当初予算の国債費における想定利回りは3%、国債費全体は31兆2758億円と見積もられている。日銀が国債を大量に市場から買い上げていた時代には、実際の利回りと想定利回りの差額を財源として「活用」することもできたが、今はできない。円安も止まらない。日本における財政破たんの危機を警戒し、資金が日本から流出している証左だろう。
   
総花的な17の戦略分野への公費投入を政権の看板政策とする高市政権だが、まさにこの政策こそが、市場の警戒を呼んでいる。日本独占資本の投資不足はかねてから指摘されてきた。だから公費の投入を、というのが高市政権だが、私たちはまず、なぜ投資不足なのかを問わなければならない。投資をしないのは独占資本であるのに、なぜ税金が投資に使われなければならないのか、と。
   
このまま「積極財政」を続ければ、早晩、増税と今まで以上の社会保障費の削減が迫られる。犠牲になるのは労働者・勤労諸階層だ。前述のNATO各国ではすでに、富裕層のぜいたく品、大企業の利益への課税強化とあわせて、教育などの分野での支出の伸びを抑える。英国は対外援助予算の削減をはじめ、福祉予算削減が議論され、オーストラリアでは傷害保険制度の予算を抑制する方針を示した(5.1日経)。
   
儲け(搾取)の源は労働に求めるしかないのだから、少子化による労働力不足の中では、一層の労働強化、労働基準法の改正による裁量労働制の拡大と、外国人労働者のさらなる活用しか道は残されていない。排外主義的主張を掲げる参政党などとの対抗関係で外国人対策の厳格化を掲げる高市政権はここでも矛盾に突き当たる。
   
労働力不足は、自衛官不足にも直結する。防衛省によれば、現場に近い「士」の充足率は2024年末で60.7%(2020年には80.7%。4年で20ポイント減)。今国会には予備自衛官等兼業特例法案が提案されている。予備自衛官である国会公務員、地方公務員が訓練、召集に応じる場合、本務を職務専念義務免除が目的とされているが、むしろ今後、「公務員」が予備自衛官となることへの参加圧力となることが懸念される。
   
   

■5. 軍拡をやめて外交政策の転換を

国力が低下した米国は、中国との間で衝突に至ることなく、共存を図り、危機を管理する道を選択しようとしている。そのことは今回の米中首脳会談を見ても明らかだ。高市首相が答弁した「台湾有事」を、米国も中国も想定をしていない。この情勢の下で、日本が突出して対中強硬路線を貫くことは、日本国内の一部「保守層」を喜ばせるだけである。このことは、結果として、中国の対日不信を拡大し、負の連鎖、軍拡競争をもたらしている。この軍拡競争を私たちは食い止めなければならない。
   
前述のとおり高市政権が進める軍拡は、財政面から掣肘を受ける。軍拡を進めつつ、日本国債の信認(あるいは円の信認)を確保するためには、増税と労働規制の緩和、そして社会保障費の削減を進めるほかない。
   
国際通貨基金(IMF)が4月17日に発表した「世界経済見通し」は第2章を「防衛支出:マクロ経済的影響とトレードオフ」として、「国防費乗数」(軍事費支出が経済成長に与える影響)を「1に近い値」とし、その「経済効果」が疑わしいばかりか、財政赤字が拡大し、財政を圧迫することに警鐘を鳴らしている。
   
一部諸国はトランプ米政権との距離をおきはじめている。3月2日、スペイン政府はイラン攻撃にかかわる米軍に対し、国内にある共同軍事基地の使用を禁止する決定を下した。米国と最も緊密な関係を持つ英国も、イランへの攻撃に参加しないとしている。ドイツのメルツ首相は4月27日、「イランは予想以上に強く、米国には本当に説得力のある戦略が欠けている」と批判した。
   
軍需企業上位100社の2024年の総売上高は6790億ドルであったが(SIPRI)、米国の経済誌フォーチュンによれば、同年の米小売り大手ウォルマートの売上高は約6481億ドル。日本の軍需産業上位5社(三菱重工、川崎重工、富士通、三菱電機、日本電気)の売上高合計は133億ドル。トヨタは3120億ドルだった。軍需産業が日本の経済を浮揚させる、というのは明らかにミスリードだ。
   
米国にはしごを外され、財政が破たんする前に、攻撃的な軍備拡張から転換し、独自の外交政策を展開することが求められる。
   
(5月19日)
   

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