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●2025年8月号
■ 生活苦への不満が自公政権を過半数割れに
第27回参議院議員選挙結果から考える
足立 康次
■1. はじめに
7月20日投開票された第27回参議院議員選挙で石破政権は、非改選と合わせて自由民主党(以下「自民」)・公明党(以下「公明」)で過半数確保となる50議席獲得を目標としたが、47議席の獲得にとどまり、衆参ともに与党が過半数を持たない少数与党となることが確定した。選挙戦中盤の報道から明らかであったとはいえ、国民民主党(以下「国民」)は改選議席から13議席増の17議席、参政党(以下「参政」)は13議席増の14議席と、両党の躍進は目を見張るものがあった。立憲民主党(以下「立民」)の獲得議席数は22議席で変わらず、社会民主党(以下「社民」)は比例代表で1議席を確保するとともに、比例得票率を2.06%として政党要件を確保した。
今参院選の課題は、自公を参議院でも過半数割れへと追い込み、国民の総意として政権交代に向け解散総選挙を求めることにあった。コロナ禍による財政支出の拡大、ウクライナ戦争、中東危機による資源高が重なり、世界的に物価高が引き起こされた。日本ではこれにアベノミクスによる円安、少子高齢化の進展による生産年齢人口の減少による人手不足が重なった。2024年の物価上昇率(平均・総合)は対前年比2.7%上昇(食料品は4.3%)した。最新6月の物価上昇率は対前年同月比3.3%の上昇(食料品は7.2%)を示している(7月18日公表)。このように勤労国民が生活に苦しむ一方で、自民党派閥が主導した政治資金パーティを使った裏金作りが明らかとなり、国民の怒りが高まり、昨年10月20日投開票の第50回衆院選では自民が67議席減らして191議席、公明党が8議席減らして24議席、あわせて215議席と過半数の233議席を大きく割りこみ、立民が148議席(50議席増)、国民民主党(以下「国民」)が28議席(21議席増)など躍進し、与野党逆転が実現した。しかし、大幅議席増となった立民も今回の得票は微増だった。少しの差が結果に大きく影響する小選挙区制の特性が現れた選挙結果であった。
本稿では、投票結果などから垣間見える有権者の動きを選挙区では1人区に、そして比例区では複数選挙区での議席獲得とあわせて、前進した参政党の得票を軸に探るとともに、労働組合の組織内候補の得票推移についても触れ、今後の課題を考えてみることにしたい。
■2. 選挙結果から見る有権者の動き
投票日が3連休の中日に設定され、その低下が懸念された投票率は、前回(2022年・52.05%)を約6.5ポイント上回り、58.51%となった。その大きな要因は期日前投票の増加(前回約1961万人、今回は約2618万人)である。152人の女性が立候補し、最多であった2022年の35人を上回る37人が当選した。
・(1)選挙区
3年に1回、総定数の半数(124議席)を改選する参議院では、与野党が議席をわけ合う複数区の結果より、与野党どちらかが議席を獲得する32ある1人区の帰趨の方が、全体の勝敗を直結する。その際のカギは野党候補の一本化だ。2014年、安倍政権(当時)による安保法制強行採決により結集が図られた野党共闘は、2016年、19年の参院選で大きな成果を挙げた。野党共闘の後退が参院選挙に如実に表れたのが2022年参院選であった。
今回の参議院議員選挙では、16年・19年には及ばないものの、各方面の努力によって前回22年を上回る16の1人区で野党候補一本化が図られ、結果、18の1人区で野党系候補の当選が勝ち取られた。
しかし、今回の参議院議員選挙では、1人区だけでなく、複数区での自民の退潮、国民・参政の躍進が獲得議席に大きな影響を与えた。既成政党の指定席とみなされていた複数区に、国民・参政が割って入り、議席を獲得していった(とくに参政は複数区で7議席を獲得)。

(図表1・クリックで拡大します)
図表1は、選挙区・比例区における各党の得票数を前回と比較したものである。選挙区で票を減らしたのは自民、公明、維新、共産。立民、国民、社民、れいわ、参政が増やした。各党の前回との増減の計は約600万票。これは投票率の上昇(概算で約670万票)とほぼ一致する。
推論にすぎないが、前回自民、公明、維新に向かった票と、投票に行かなかった票の多くが参政と国民に向かい、その一部が立民へ、とみることができる(参政党は全選挙区に候補者を擁立し、自民以外の選択肢を提供した)。なお、共産党が失った票とれいわが獲得した票はほぼ一致することから、両党間での票の移動も考えられる。
・(2)比例区
次に、有権者の支持政党がより明瞭に分かる比例区の得票状況を見てみよう。選挙区とほぼ同様だが、違いもある。公明と維新は選挙区よりも比例区での減り方が大きい。党への岩盤支持層が減っていることを示している。立民の増加は選挙区得票の増加の半分以下であった。選挙区での増の一部は候補者一本化の成果とみるべきだ。同様のことは国民にも言える。選挙区の方が、増え方が大きい。れいわと社民で比例区の方が得票の増が大きいのは、選挙区での候補者「不足」のせいであろう。なお、参政党は、約160万票比例区での得票増が少ない。選挙区での候補者は参政党が選択肢となっても、比例に入れる(党を選ぶ)ことについてためらいが有権者にあるのかもしれない。
なお、新聞各紙の出口調査を見ると、
- 無党派層の比例への投票先は、
-
- 立民12%(24年衆院選より13ポイント減)、
自民11%(同4ポイント減)、
維新8%(同3ポイント減)、
国民15%(同2ポイント減)、
参政14%(同9ポイント増)
となっている(読売)。各政党支持層の動向(比例)を見ると、自民支持層は73%しか自民に投票せず(一部が公明、参政、国民民主党へ4%、立民・維新に3%、日本保守とみらいに1%流れる)、しかも自民に投票したのは高齢層に偏っている。また、共同通信によれば、年代別の投票先は、18・19歳では、国民が25%、参政が23%、自民11%の順になっており、とりわけ参政は、20代・30代22%、40代18%、50代%と若年層から壮年層で支持があつい。
最後に、連合傘下各労組組織内候補の動向を見ておこう。それぞれの産別で組織事情も異なり、一概に比較することはできないが、多くの産別で得票数の対組合員比が低下している。とりわけ中でも10ポイントほど低下している産別が目立つ。日常的な組合員との結びつき、参議院選挙に止まらない選挙闘争への参加など、再強化すべき課題は共通しているのではないか。
■3. 参議院選挙の特徴点は何だったのか
出口調査(読売新聞)をみると、今回の投票を行うにあたり、
- 「最も重視した政策」は、
- 物価高対策46%、
年金・社会保障政策17%、
子ども政策・少子化対策12%
となっており、
- 外国人に関する政策は7%
で4位であった(外交・安全保障政策は4%)。そして、
- 「消費税をどうするか」については、
- 税率を下げるべき52%、
いまの税率を維持27%、
廃止18%、
であった。
前述したとおり、物価上昇は留まるところを知らず、その対策としての消費税減税は喫緊の課題である。物価上昇と名目賃金の上昇により、税収は累増している。物価上昇が始まる前の2019年度における主要3税(法人・所得・消費)の合計は約48.3兆円。これが2024年度には約62.5兆円(法人税約7.2兆円増、所得税1兆円増、消費税6兆円増)まで膨れ上がった(2024年度税収は概数)。累進課税の緩和(高額所得者への減税)、法人税率の引き下げ(独占資本への減税)をもとに戻せば、それだけで消費税減税の財源は十分に確保できるであろう。選挙戦を通じて、消費税減税(あるいはゼロ%)の主張がどれだけ広がったのか、私たちの総括が必要であろう。
参政が脚光を浴び、新しい争点として浮上したのは、外国人問題であった。1990年代労働法制の改悪と軌を一にして、1993年、「技能などの移転を図り、その国の経済発展を担う人材育成を目的」として技能実習制度がスタートし、1991年に約122万人であった特別永住者を含む中長期の在留者数は、2024年末時点で約377万人となった(うち、技能実習約45.6万人、技術・人文知識・国際業務41.9万人)。
「日本人ファースト」の根拠とされる「外国人は優遇されている」という言説に対する虚実をここでは問うことはしない。私たちが直視すべきは、「日本人ファースト」の主張が、有権者の心をとらえたことの背景に、「自分たちはこんなにもないがしろにされている」という厳しい事実があることではないだろうか。
フランスにおける極右伸長の1つのきっかけは、2015年のシャルリー・エブド襲撃事件に象徴される移民または移民を出自とする自国民によるテロ事件の頻発と、社会不安のまん延であったとされる。治安対策を強化することへの支持が拡大し、極右政党勢力の伸長がはかられた。
日本ではこのような大規模なテロ事件は2000年以降見られないが、社会不安でいえば、2020年からのコロナ禍がその原因として考えられる。感染症の拡大と死の恐怖が身近に迫るなか、一方で、医学、自然科学への漠然とした不信感が作り出されたといえるのではないか。参政の主張の1つに反ワクチンがあることは、このことと無関係ではあるまい。反科学は陰謀論とも結びつく。
反科学に科学を対置することは間違いではないが、それだけで陰謀論に立つ人々を説得することはできない。マルクスが言うように、「民衆の幻想的な幸福である宗教を揚棄することは、民衆の現実的な幸福を要求することである」。私たちがどのような「現実的な幸福を要求」していくのかが問われる。287支部、地方議員約150人、党員・サポーター約10万人(読売新聞)とされる参政党は、NHK党や石丸新党といった風任せの党とは異なる党だと見なすべきだ。腰を据えた分析・研究が求められる。
最後に、この参議院選挙で争点に十分ならなかった争点を列記する。1つは、トランプ関税への対応である。中国のようにレアアースを握り、米国と渡り合える「大国」ではない日本は、多くの国々と連携して米国と対峙すべきだ。これと関連して、米国と約束した5年間で43兆円の大幅軍事費増額の凍結、削減が喫緊の課題である。その履行は軍事公債の発行という「戦前への道」の繰り返しである。3つは前述した財源確保としての独占資本・富裕層への課税強化と、金融所得課税の強化である。
衆院に続き参院でも過半数を失った石破政権の命運は尽きている。だが、立憲野党も、選挙で示された勤労国民の不満、不安、怒りを、この選挙で組織することに成功しなかった。選挙総括を深める中で、勤労国民への主張、そして結びつき方を見直すことが求められている。
(7月23日)
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