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●2024年4月号
■ 岸田政権の即時退陣を求めよう
    足立 康次

■ はじめに

イスラエル軍によるガザ侵攻での死者が3万人を超えた。誰もが、ハマスの奇襲とイスラエルによる侵攻の犠牲者の不均衡に気が付いている。ネタニヤフ政権は明らかにパレスチナ人をガザから追放しようとしている。日本も含む欧米諸国の批判も腰砕けだ。日本も含めた帝国主義諸国にとっては、今なお重要なエネルギー源である原油の安定供給のためにイスラエルの存在が不可欠だからである。
   
こうした抑圧と分断に満ちた世界の情勢を大きく変える可能性を秘めているのは、グローバルサウスと呼ばれる新興国の独自外交であり、欧米各国で、ストライキをもって立ち上がる労働者階級の闘いである。この中での、日本の課題について考えてみたい。
   
   

■ 最高益を更新する独占資本と低迷する消費

コロナ禍から回復した独占資本は、「上場企業、3期連続最高益」と高収益を確保し、株価も史上初めて4万円の大台に乗せるなど「好景気」に沸いているが、私たち勤労国民にその実感はない。むしろこの間の日本経済の停滞の方が際立つ結果となっている。その主因も「海外投資家の買い」(2024年3月5日 日経新聞)だとすると、その内実はいよいよ怪しくなってくる。高騰するマンション価格はミニバブルと言えるのかもしれないが、日本全体がバブルに沸いている、とはいえず、特定の独占資本、富裕層だけが潤っている。
   
消費者物価指数(総合)をみれば、2020年を100として、2023年は105.6となっているにも関わらず、家計調査にみる2人以上勤労世帯の消費支出は同期間でほとんど増えていない(2020年1月の消費支出は31万2473円、2024年1月のそれは31万3165円)。他方「世帯主の配偶者の有業率」は、同じ期間で54.8%から57.3%に増えている。物価高の中、実質の消費を切り詰めながら、一家で働き出る姿が見て取れる。
   
23年10〜12月期のGDP改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が年率換算で0.4%増となった。しかし、その内実を寄与率で見れば内需マイナス0.2ポイント、外需プラス0.6ポイントであり、外需依存は明らかだ。個人消費も▲0.3である。このことは名目賃金から物価変動の影響を差し引いて算出した実質賃金指数(現金給与総額)でも確認することが出来る。同指数の対前年同月比は、2022年4月に▲1.7となって以降マイナスを続け、2023年12月▲2.1とプラスに転ずることが出来ないでいる。2023春闘における定昇込み賃上げ計は3.58%、賃上げ(=ベア)分は2.12%(連合最終集計)であったが、これは組織された労働者の賃上げ率であるが、これでも2022年度の消費者物価指数103.2に届かない。
   
ことは賃金だけに止まらない。労働者の働き方も切り詰められている。その氷山の一角が、自動車業界で多発する品質検査の不正である。22年には日野自動車でトラックエンジン排ガスデータの不正、23年3月には豊田自動織機がホークリフト用エンジンの排ガスデータの差し替え、同年12月にはダイハツ工業で新車の安全性を確認する試験などの不正に対して、国内外の全工場で、自社開発の自動車の出荷が停止された。不正を調査するため立ち上げられた第三者委員会は不正の原因として「短期間での新車開発」をあげた。開発期間を守ることが目的化し、最終工程である認証試験にしわ寄せがきていた、というのである。資本主義的競争の激化が労働者の働き方を歪め、手抜き作業、不正に追い込んでいるのである。
   
もちろん生活苦は勤労世帯だけでなく、生活困窮者も直撃する。「2023年の生活保護の利用件数は25万5079件で、前年と比べて1万8112件(7.6%)増えた。申請件数の増加は4年連続。厚生労働省はコロナ禍に加えて物価高の影響が押し上げたとみている」(2024年3月7日 朝日新聞デジタル)。
   
   

■ 2024春闘で勤労国民全体の底上げを

連合による先行組合回答ゾーンを終えた3月15日に発表された第1回回答集計によれば、平均賃金方式で1万6469円、5.28%(昨年同期比4625円増、1.48ポイント増)、賃上げ分が明確にわかる賃上げ分は1万1507円、3.70%となった。うち、300人未満の組合の加重平均は1万1912円、4.42%である。筆者の力量もあり、33年ぶりの5%超えという。これだけの情報で2024春闘を概括することはできない。とりまく情勢と、注目点についてのみ触れることとしたい。
   
誰しもが指摘する春闘の特徴は「人手不足」のもとでの春闘であり、インフレ下の春闘だ、ということである。人手不足の原因は政府の子育て対策批判の項で述べた通りである。言い方を変えれば、日本資本主義は労働力の価値通りに賃金が支払われず、したがって労働力の再生産が困難な社会になってしまっている。その結果が人手不足である。完全失業率など統計的に見ればすでに2017年ごろから「人手不足」は叫ばれていたが、労働力の売り手同盟である労働組合はまだ立ち上がるに至っていなかった。2020年からのコロナ禍により、一時的に雇用が「蒸発」し、「人手不足」は一旦後景に退いた。あらためてこれが意識されるようなったのがコロナ後である。インフレについても触れたとおりだ。2023春闘でたしかに潮目は変わった。しかし道は半ばである。
   
2023春闘から2024春闘に引き継がれた課題は大きくは2つあるだろう。
   
1つは、大手と中小の格差是正の問題であり、そこに立ちはだかる価格転嫁の壁である。中小企業庁が2023年9月に行った調査の中の「受注企業側から見た価格転嫁の業種別ランキング」を見ると、全体の「コスト増に対する転嫁率」は47.6%。紙・紙加工(58.6%)、卸売り(67.1%)、機械製造(53.4%)などは相対的に転嫁率が高いが、自動車・自動車部品(34.7%)、放送コンテンツ(24.5%)、トラック運送(21.1%)は転嫁率が極端に低い。公正取引委員会は3月7日日産自動車に対して下請代金支払遅延等防止法に違反する行為が認められたとして、同社に勧告を行った。同勧告によれば日産は、下請代金の額から割戻金の名目で総額30億余りを差し引いていたという。3月12日にはコストコに対しても同趣旨の勧告を行っている。運輸業界が直面する2024問題も、労働に見合う対価の引上げ抜きに進められれば、個別資本が廃業に追い込まれ、労働者は賃下げに直面するほかない。連合が提唱するパートナーシップ宣言も、独占資本による中小企業の収奪を少しでも減らし、労使による賃上げ交渉の原資を確保するという意味で重要な取り組みであると考える。
   
適正な価格転嫁は地方自治体とその委託事業を受託する企業との関係においても不可欠である。下請け企業労働者の最低限の賃金を確保するためにはこのことを保障する公契約条例の制定が求められる。医療・介護・福祉など公定価格のもとで受託する事業者、とりわけ公的病院や、社会福祉協議会など公的セクターの経営悪化にも目を向ける必要があるだろう。こうした事業体は公定価格のもとでは民間事業者と同列に扱われながら、「公的」であるがゆえに、民間事業者が手を出しにくい不採算事業を主に担うからである。この部門については自治体による事業の正当な評価と、それに見合う費用の補填が不可欠である。公共交通や、定期昇給制度廃止の提案が伝えられている郵政など、公共性を持ちながらも容易に価格転嫁できない事業に対する公的な援助も不可欠であろう。
   
2つは、発表される額、率に惑わされることなく、その内実を見極める必要性である。2023春闘でも多くの資本が人材確保のために初任給部分を重点的に引き上げた。初任給のみを引き上げればその前に入った労働者は賃金で新規採用者に追い抜かれてしまう。これを防ぐためにどの資本も一定の在職者調整を若年層に行い、逆転を防ぐのであるが、これをどこまで行ったかによって、労働者全体のベースアップ額は大きく異なることとなるからである。
   
   

■ 求められる安倍的政治からの脱却

以上の通り、国民の生活は困窮と不安定さの度を深めている。この中で日本の政治に求められているのは安倍的な政治から決別し、熟議を尽くし、国民生活に焦点をあてた政策に転換することである。
   
安倍政権以降の政治手法は、官邸に権限を集中し、マスコミを統制しながら、熟議を軽んじて、強権的に政策を断行する政治からの脱却である。岸田政権は強権政治に便乗し、政策を実行しようとしてきたが、ここにきてこの政治手法の行き詰まりが露呈してきている。
   
自民党派閥による政治資金パーティーでの裏金づくりは、勤労国民の怒りを掻き立てている。問題の焦点は、議員本人に還流された「政治資金」があまりにも巨額であり、しかもその使い道が全く明らかになっていないことである。自民党総裁である岸田文雄首相は、派閥の解消、政治資金規正法改正、政党のガバナンス改革をもって、この問題の火消しにあたろうとしたが、それは今回の問題の全容が明らかにされたあとの課題である。衆参における政治倫理審議会では、自ら出席した岸田首相を筆頭に、各議員とも弁解と不明瞭な回答に終始し疑惑はさらに深まった。議員1人ひとりがその発言に法的責任を負う証人喚問を行うことが不可欠だ。
   
この問題を受けて、内閣支持率は各社とも低下している。北海道世論調査会の集計によると2月の平均は、支持、21.6%(対前月▲2.2ポイント)となった。政党支持率でも、自民党24.9%(対前月2.5ポイント減)と下野前の福田内閣の最低値を下回った。「政治資金問題での首相の評価」が、平均15.7%(NHK、朝日、日経の平均)であることから、支持率低下の背景に裏金問題があるのは明白である。そして、政倫審に出席した5人の議員について、86%の人が「説明責任を果たしていない」と感じ、安倍派幹部を立件しなかったこと、実態解明が進んでいないことに不満を募らせている。一方の野党は、立憲8.2%(対前月2.6ポイント増)、日本維新の会6.4%(0.6ポイント増)と昨年12月に続いて立憲が上回った。トリガー条項の凍結解除が進まないことで、自公との3党協議を離脱した国民も0.5ポイント上昇している。次の衆院選での比例代表の投票先も、自民・公明を合わせて3割を切った。
   
もちろん、今国会の論戦を裏金問題のみに終わらせてはならない。第一は、「異次元の」子育て支援を口実に進められようとしている隠れ増税である。2月27日に昨年の出生数が75.8万人と公表されたように、少子化対策は喫緊の課題だが、本誌で多くの論者が主張してきたように、少子化の背景には、正規労働者の長時間労働とこれを背景とした家庭における男女の著しい家事負担の不均衡(それを助長する税控除の仕組みなど)と、非正規労働者の増加を主な理由とする非婚化の増加を上げなければならない。
   
ところが、今回示された子育て支援策は、労働環境、雇用制度の改善に手を付けることなく、現に子育てを行っている家庭への金銭的支援に特化した政策を羅列し、支援金制度と称して2026年度から社会保険料に上乗せして調達しようとするものである。1人当たりの負担額も、岸田首相が2月には1人当たり、500円弱と答弁したのだが、その2週間後には支援金を所管する加藤鮎子子ども家庭相が、「1000円を超える方がいる可能性」と発言。額自体も大きく揺れている。もとより、調達すべき額(1兆円とされる)ありきの支援金制度であり、被保険者の人数などを基準にそれぞれの負担額を保険者に割り振るものである(負担者は各保険者ということになるだろう)。これは事実上の増税である。
   
地方自治法改正案は、中央集権化を進める法案である。「コロナ禍での教訓」を逆手にとり、「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」においては、法の定めによらず閣議決定のみで国は地方公共団体に対し、国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、必要な指示ができる」とされる。憲法上地方自治体は、「地方自治の本旨」に基づき、自律的に地方行政を行う主体である。辺野古新基地建設に関する代執行に象徴される国益を最優先に住民をないがしろにする政治が法的根拠なしに全国に広がることとなる。
   
安全保障において米国に追随することに終始する岸田政権は、昨年11月の墜落事故により全世界で飛行停止となっていたオスプレイの飛行再開を米軍が決定するや、なんの異議を唱えることもなく容認した。事故原因は一切公表されず、同機が配備されている自治体(東京・横田、千葉・木更津、沖縄・普天間)への説明もされていない。ここでも住民無視は一貫している。
   
大軍拡と増税の中で浮上しているのが、次期戦闘機の日英伊3国での共同開発と第三国への輸出問題である。「平和の党」を自認する公明党が抵抗を示したものの、3月13日の参院予算委で岸田首相が武器の第三国への輸出解禁に関し「次期戦闘機の共同開発プログラムに限定」した上で、輸出対象国は日本が防衛装備品・技術移転協定を結ぶ国に限り、戦闘が行われている国を除く、と答弁し、幕引きがなされた。武器に色がついているわけではない。「アメリカ向け装備部品増産へ」(2024年3月10日 読売新聞オンライン)は、ウクライナへの輸出で不足する米国の砲弾やミサイル不足を、日本が米国向けに輸出することを決めたと伝えている。第三国を経由すれば、紛争当事国への武器輸出は可能であり、岸田首相の言う「歯止め」は機能しない。
   
日本政府は、この次期戦闘機の共同開発にすでに5343億円を投入している(NHK政治マガジン2023年4月25日)。今後どれだけかかるは、各国の負担割合にも左右されるが、同機と同じ第5世代機であるF22の開発費は2.3兆円、F35は6.1兆円だったという(同記事より)。他の2国の思惑もからみ、共同開発が「順調に」進むか自体見通せない。たとえ無事に完成しても、投下した資金を回収するためにはより多く生産し、売却しなければならないという危険な落とし穴にはまっていくことになる。ただちにこの共同開発から手を引くべきである。
   
今国会の課題はこれらに尽きるものではないが、いずれにせよ国会内における野党の追及に不満を鳴らすばかりでは何も進まない。求められているのは野党の腰砕けを許さない大衆運動の盛り上がりである。自民党はここにきて浮上した和歌山県連の不祥事など、容易に解散総選挙をうてる情勢にない、と言われているが、4月28日には東京15区、島根1区、長崎3区での補欠選挙の投開票が予定されている。自民党は東京・長崎では候補を擁立しないと伝えられている。自民が必勝を期す島根で落選すれば、自民党内の岸田降ろしが一気に加速するかもしれない。たとえ島根で勝利しても、今年9月の総裁再選を目指す岸田首相は、現有勢力が減っても、自公で過半数が維持できると見なせば、勝負に出てくる。
   
このような情勢の中で私たちに求められているものはなにか。1つは、果敢に春闘を闘う労働者を支援することである。その行動の中で具体的な労働者の声をつかみ、政策に作り上げていくことである。2つは、国民の自民党政治への怒りの背景に物価上昇、社会保険料負担の増大、低賃金、不安定雇用があることを見据えて、自公政権と対峙していくことである。最低賃金の全国一律1500円への引上げ、非正規労働者の処遇改善は急務である。充実が求められる社会保障について、その財源を独占資本への法人課税強化、富裕層への累進制強化に求めるべきである。3つは、そのことを通して、私たちの敵は同じ労働者階級の中にいるのではなく、蓄積した利潤をため込んでいる独占資本にあることを社会的に明らかにしていくことである。
   
全国各地で与えられた条件は異なるが、以上述べた課題は共通する。289の小選挙における野党の候補者一本化に向けた努力を積み重ね、岸田政権、そして自公政権を打倒するため、早急に総選挙態勢を確立することが求められている。
   
<3月18日>
   
   

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