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●2023年5月号
■ 岸田政権の暴走を止めよう
    小笠原 福司

■「死滅」しつつある民主主義

明後日が衆参5補欠選挙、統一自治体選後半の投開票日なので、その結果を見ずしての脱稿であることを冒頭お断りしたい。月刊誌の宿命でもある。
   
中見出しに「死滅」しつつある民主主義とした。統一自治体選の前半戦を終えて、「低い投票率では地域の未来は開けない」(日経新聞、4月11日)との見出しがすべてを物語っていた(なお、政党の伸長などの詳細な分析は、後半戦を終えて全体の分析に委ねたいが、特徴は岸田政権発足後、一昨年の衆院選、昨年の参院選に続き、維新が政権批判票の受け皿となる傾向が続いていることである)。
   
前半戦の投票率は9道府県知事選が46%、41道府県議選は41%といずれも過去最低を更新した。投票率は長く低落傾向にあり、与野党対決や保守分裂の激しい選挙となった北海道、奈良、徳島の知事選も50%台前半、約半数が棄権する結果となった。問題は「何を問題にし、どの様な社会、地方自治を作るのか」国民への訴えが総花的で不明瞭だったことではないだろうか。暮らしに直結する課題を自分たちで決めるのが地方自治であり、「民主主義の学校」と呼ばれてきた。しかし、低得票率は自治の根幹が揺らいでいることを教えている。なお、統一地方選といいながら今回、実施する選挙は全体の27%に過ぎない。
   
地方における人口減少は地域経済の疲弊をうみ、「若者の都会への流出」は止まらず、それがまた人口減少に拍車をかけるという負のスパイラルに陥っている。ちなみに41道府県議選で総定数に占める無投票当選の割合は25%。そうした傾向が強まっている中で、今回道府県議選で女性当選者が316人と過去最高となった。ただ女性比率は過去最高とはいえまだ14%にとどまる。
   
平成の大合併によって、自治体の再編が進み現在は1700自治体(13年前比べて約53%の減)あまりとなり、議員定数の削減とも相まって「住民自治が遠くなった」ともいえる。それらが影響しつつ、投票率の低下、議員のなり手不足、無投票当選の増など「民主主義の拡充」どころか、「死滅」寸前ともいえる現状になっている。
   
特に、第二次安倍政権以降、「一強多弱」といわれる政治構図が続く中で、権力を駆使して分断、支配し、国会や国民への丁寧な説明を行わず、憲法を蔑ろにした「閣議決定の強行」「臨時国会の召集要求」への無視に代表される「先進国」にあるまじき独裁政治が断行されてきた。それは、「誰がやっても同じ、どうせ政治は変わらない…」などと国民を「政治不信、アキラメ」へと追いやってきた。 それはまた野党勢力による日常的に国民の中に入って暮らしと雇用、安心・安全の社会保障拡充の具体的な要求の発掘と改良の闘いの弱さを表わしている。日常からの闘いの組織化、政治的経験こそ民主主義の拡充である。そうした闘いに裏打ちされた民意こそ、岸田自公政権に対峙出来る力である。「民主主義は与えられる」ものでは無く、闘いとるもの、そのことを前半戦の戦いは教えている。
   
   

■ 通常国会後半の主要な論点をめぐって

通常国会の前半を終え、後半の攻防が始まっている。特に、ロシアのウクライナ侵攻を奇禍として岸田首相は戦後の防衛政策の基本である専守防衛をかなぐり捨てて、「戦争のできる国」へと突き進んでいる。敵基地攻撃能力の保有に向け、防衛費のGDP比2%増額である。敵基地攻撃能力の保有によって日本は守れるのか、その明確な根拠もない。また、そもそもどの国が、日本にミサイル攻撃を仕掛けてくるのか。「台湾有事は、日本の有事」と言うが、その根拠はあるのか。などについて国会で徹底して論戦を交わし、多くの国民が納得できる根拠を明らかにすべきである(なお論点と課題は、本誌4月号の特集を参照のこと)。
   
これは、野党第一党の立憲民主党(以下、立憲と略す)に対しても言えることで、「真に必要な予算を積み上げた結果、一定程度の防衛費の増額はあり得る」「時代の変化に対応した質の高い防衛力の整備」「ミサイル能力の向上」などとの主張。これらの主張は自民党、維新、国民民主などの主張とどこが、どう違うのか国民の疑問は深まるばかりといえる。それが「対立軸が不鮮明」と言われる要因と思われる。筆者はつまるところ軍拡による抑止力強化で戦争を防ぐことが出来るのか、に核心があると考えている。
   
マスコミ総動員の「台湾有事は、日本の有事」「防衛費の増額で、抑止力を高めて、日米同盟をより強固にして日本を守る」という論調による報道は、「やはり軍備の増強、自衛隊の強化も必要では…しかし増税には反対」という半数を超える意識を国民の中に作り出している。この疑問に答える立憲を中心とした野党の取り組みが問われている。
   
後半戦のもう1つの大きな攻防点は、岸田政権の「異次元の少子化対策」である。これは、軍拡予算増への反発をかわす意味も含めて、統一自治体選前に総花的にメニューを並べた感が強い。政策の基本方針である「こども大綱」もこれから作る。会議も乱立して迷走感が漂う様子は、岸田政権の「やってる感」の象徴ともいえる。
   
岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」の最大の論点は財源問題である。この財源を社会保険料でまかなう案が政府・与党で浮上している。だが、ここ四半世紀で、実質賃金が伸び悩む一方、社会保険料は右肩上がりで上昇し、現役世代の家計は苦しくなっている。さらに財源として保険料を引き上げれば、「子育て世帯の負担が増す」という矛盾が指摘されている。
   
一般的な会社員(協会けんぽ)の収入に対する保険料率は、23年5月で計15.66%と20年前より3.53ポイント上昇した。負担増は、総務省の「家計調査」でも明らかだ。2人以上勤労世帯の収入に占める社会保険料の割合は06年の8.3%から22年には11.9%に上昇した。所得税などの直接税と社会保険料を合わせた割合は、06年の15%から22年には20.7%になった。例えば、06年と22年で、年収700万円が変わらなくても、手取り(可処分所得)は、社会保険料分だけで年間25万4000円減り、税と合わせれば同約40万4000円も減った計算になる。その分、家計は圧迫されている。
   
また、社会保険料は、収入に一定料率を課すため、収入の少ない人ほど負担が重い「逆進性」がある。税のような再分配機能がなく、保険料負担が増せば格差拡大をもたらすことになる。給与や賞与から天引きされる社会保険料は「痛税感」も薄く、これまでは政治問題になりにくかった。ここにも岸田政権の姑息な魂胆が見え隠れしている。少子化対策の重点は、雇用の安定と賃金の上昇である。ここに踏み込んでこなかった自民党政治は、持続可能な日本社会を作る能力を持っていないことは明白である。
   
ちなみに朝日新聞(8、9両日実施)の世論調査では、

岸田政権の少子化対策を
「評価しない」が52%、
「期待できない」61%。
防衛費増大のための1兆円増税方針に
「賛成」わずか26%、
「反対」は68%。

毎日新聞(15、16両日)では、

岸田政権の少子化対策を
「評価する」20%、
「評価しない」53%。
社会保険料の引き上げに、
「反対」が72%。
また、財源確保のための1兆円増税についても
「反対」が67%

となっている。
   
前述した「軍拡予算の増」を「少子化対策に回せ」、さらにこの間の法人税減税の是正、富裕層への課税強化などを柱とした財源の確保をまず優先すべきである。この少子化対策の財源確保をめぐる攻防は、次の日本を担う世代の政治参加を促さざるを得ない。他の論点については字数の制限があるので、本誌の特集を参照頂きたい。
   
   

■ 真正面から岸田政権と対峙する共闘構築

さて、前半戦を終えての率直な感想は、「戦後の安全保障の大転換に突き進む岸田政権に対して、立憲野党は院内外から共闘して真正面からの対決を」(立憲野党とは、立憲、共産、れいわ、社民、沖縄の風)に尽きる。
   
昨年の臨時国会に引き続き立憲と野党第二党の維新との共闘が模索されているが、維新は自民党と衆院で審議中の原子力発電所の運転期間を延長できるように法案の修正協議に入ることで合意をした。維新は安全だと確認した原発を早期に再稼働するため、原子力規制委員会に審査の効率化を促す規定を盛り込むよう求めている。いわゆる「是々非々路線」(国会内の維新の存在意義を示す)によるものと思われる。維新の戦略は「全国政党化につながる協議、共闘なら何でもやる」ということではないだろうか。それが「自公政権の補完勢力」と指摘される要因でもある。
   
立憲の「第二党との共闘による、岸田政権と対峙出来る共闘の構築」は王道ではあるが、維新がその道は歩まないことは歴然としている(岸田首相も万博への協力やIRの認定と、維新との関係構築に奔走している)。現在の国会における攻防をふまえつつ、後半国会で岸田政権による一気呵成の政治反動(「軍拡」「増税」「原発再稼働」など)を睨むと、ここは厳しくとも立憲野党との共闘強化を軸に、院外の大衆行動の組織化を背景とした「戦争のできる国への暴走阻止」に全力を挙げる時である。
   
総務省が発表した2022年度平均の全国消費者物価指数(20年=100、変動の大きい生鮮食品を除く)は前年度と比べて3.0%上昇だった。伸び率は第二次石油ショクに伴うインフレが続いていた1981年以来、41年ぶりの高水準となった。こうした物価高の中で生活困窮に追い打ちをかけるように増税ラッシュである。
   
当面する共闘の柱は、防衛費のGDP2%確保に向けた財源確保法案の廃案、異次元の少子化対策財源確保に向けた増税、社会保険料増額反対、さらに5月サミットまでに結論を得たいと、自民、公明両党が「防衛装備移転三原則」の見直しを行い、武器輸出を大幅に拡大、紛争のタネを世界中にバラまく策動を許さないなど、院内外からの共闘構築と大衆運動の組織化こそ喫緊の課題である。
   
院内の闘いを支える院外の運動としては、「市民連合」が中心となり呼び掛け、これまで同様に平和フォーラムが中軸となり総がかり行動など広範な労働者、市民との共同闘争の組織化が模索されている。この院外の大衆運動の中軸となるのが旧総評系の産別、単産であることは言うまでもない。2015年にいわゆる戦争法案反対の市民と労働者との共闘組織が結成され、全国的なうねりを作り出したことは記憶に新しいと思う。今日は、当時に比べると急速に政治反動が進み、岸田政権の「戦争のできる国」への暴走に拍車がかかっている。しかし、それに真正面から抗する労働者と市民の共闘、部隊の構築は遅れている。「5.3」の憲法記念日を1つの出発点として、幅広い戦線から「岸田政権の、戦争のできる国への暴走をストップさせよう」という一点での共闘の再構築を急がねばならない。
   
   

■ 中小の賃上げ、物価高倒産阻止に全力を

連合が4月11日、2023春季生活闘争の第4回回答集計結果を公表した。
   
月例賃金改善(定昇維持を含む)を要求した4468組合中2885組合が妥結済で、うち賃金改善分を獲得した組合は1730組合(60.0%)となっており、依然高い水準を維持している。
   
平均賃金方式で回答を引き出した3066組合の「定昇相当込み賃上げ計」は加重平均で1万1022円・3.69%(昨年同時期比4765円増・1.58ポイント増)、うち300人未満の中小組合1975組合は8456円・3.39%(同3362円増・1.33ポイント増)となった。いずれも比較可能な2013闘争以降で最も高い。
   

(図1・クリックで拡大します)
   
賃上げ分が明確にわかる2180組合の「賃上げ分」は6086円・2.11%、うち中小組合1241組合は5246円・2.07%となった。図表1でみるように額・率とも2015闘争以降で最も高い。
   
こうした結果について、「組合員の生活安定や『人への投資』と月例賃金にこだわった粘り強い交渉を行った成果と受け止める」としている。
   
有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額は、加重平均で、時給56.65円(同31.93円増)・月額8864円(同3814円増)である。引き上げ率は概算でそれぞれ5.36%となり、引き続き一般組合員(平均賃金方式)を上回っている。
   
中小組合の春闘は5月連休明けから本格化する。前述した「賃上げの流れ」を如何に波及させるのかが問われている。「賃金上昇によって物価と賃金上昇サイクルが一応一回りし、慢性デフレ状態のこれまでの25年間に比べれば様変わりした。問題はこのサイクルを2周、3周と回せるかだ。今年、来年、再来年辺りが勝負だ。これを逃すと慢性デフレからの脱却は出来なくなる」(渡辺努・東京大大学院教授)との指摘。今年の春闘総括の重要なポイントだといえる。
   
そして、引き続く課題は最低賃金の引き上げである。岸田首相は「最賃の1000円への引上げ」目標を示した。渡辺氏は、「来年以降の目安を示すところまで踏み込むべき。そのことで組合も賃上げ交渉をしやすくなる。企業も賃上げを前提とした経営計画が早期に立てられる」と提起。
   
さらに年金支給額の引上げである。現行制度では、物価が上がるほどには上がらない仕組みがある。これでは物価高が予想されている中で年金生活者の不安は消えない。物価と賃金の上昇が定着するまでの数年間に限ってでも、「年金支給額を物価上昇と同水準で引き上げることが必要」とのこと。また、政府はガソリンや電力の料金高騰を軽減するため補助金を投入して「プライス・コントロール」をしている。しかし、海外の例を見てもプライス・コントロールはあまり聞かない。そこに何兆円をかけるよりも、賃上げを後押しする強いメッセージとして「賃上げをした中小企業を補助金で支援してはどうか」との提起。一考に値すると考えるがどうだろうか。
   
最後に、「賃上げムード」の中、一方で22年度は3年ぶりに倒産が増えている。図表2で見るように東京商工リサーチによると、22年度(22年4月から23年3月)の全国倒産件数は前年度比15%増の6880件だった。「“ゼロゼロ融資”(実質無利子、無担保)の返済が本格化し、行き詰まる中小が少なくない。物価高が直撃する“物価高倒産”も増えている」との分析である。22年度に倒産した企業のうち、物価高倒産は393件。3年4月は21件にとどまっていたが、今年3月は59件に跳ね上がった。1年間で2.8倍となっている。
   

(図2・クリックで拡大します)
   

(図3・クリックで拡大します)
   
産業別に見ると、最多は運輸業だ、原油などのエネルギー価格の上昇、トラック運転手の減少、そこに賃上げの「圧力」が加わる。「価格転嫁を受け入れてもらえず、行き着くところは倒産」とのこと。次に、製造業、建設業、卸売業、小売業と続く。問題は、物価高倒産のうち消滅型が約9割を占めることだ。当然、従業員は解雇となる。従業員数別では、10人未満が6割を占める。最多は5人未満で約40%。零細企業の消滅、解雇を政治が支え、継続、新しい事業への転換などの手厚い支援策が求められる。
   
立憲野党、連合を中心とした労働運動の総がかりで反失業闘争の組織化が問われている。
   
<4月21日>
   

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