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●2019年2月号
■ 戦後最長の「実感なき景気回復」局面
     小笠原福司

   

■1. はじめに

内閣府が18年12月13日、現在の景気回復局面が2017年9月時点で高度成長期の「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月の57カ月間)を抜き、戦後2番目の長さになったと認定した。19年1月まで続けば74カ月に達し、02年2月〜08年2月の73カ月(平均1.6%成長率)を抜き、戦後最長を更新する。但し、12年度〜17年度を平均した実質成長率は1.2%。「いざなぎ景気」の平均が10.1%と今回が如何に「実感なき景気持続か」を物語っている。
   
12年12月に発足した安倍政権は金融緩和を柱とする経済政策「アベノミクス」を推進した。海外経済の拡大や円安を背景に輸出主導で株価は上昇し、雇用状況が「改善」した。一方、賃金は伸び悩み、経済成長率も1%前後で消費も力強さを欠くなど、内実は「好況」の実感に乏しい景気回復といえる。
   
   

■2.「アベノミクス」下を振り返る

図表1は、財務省の法人企業統計から作成をした、1979〜2016年までの「企業の売上高と設備投資の推移」をみたものである。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
80年代に入っても売上高、設備投資は右肩上がりできたが、バブル崩壊後の1991年以降、07年のピークを除いて売上高は長期停滞基調に転じ、それを受けて設備投資も低水準で推移している。アベノミクス下の6年間も、基本的にはその長期停滞から脱却できていない。結局、「デフレの克服」には至らず「失われた30年」に向かっている。
   
異次元の金融緩和政策による緩和マネーは、実体経済には回らず円安と株高をもたらし、輸出大企業と富裕層を肥え太らせた。加えて、日銀の株式市場への介入とGPIF(年金積立金管理運用独立法人)の介入で官製株価を実現した。そして、この過程で以下の事態が進行している。
   
第一は、大企業が史上最高益をあげながらも法人税はほとんど増加せず、財政危機の構造が拡大したことである。
   
2012年度から17年度にかけて、企業の経常利益は48兆4610億円から83兆5243億円へと72.4%増加したが、法人税は横ばいである(この間、法人実効税率は12〜17年で▲7.03%も下げられ29.74%へ。加えて、海外収益や金融収益の税捕捉率が低い。もし法人税が経常利益と同率で増加していれば16.9兆円になり、17年度の単年度だけでも法人税収は4.9兆円増加しているとの試算もある)。
   
第二は、一方で、大企業が史上最高益をあげながら賃金は上がらずに格差が拡大し、労働分配率は歴史的低水準に落ち込んでいる(12年度の72.3%〜17年度には66.2%)。他方で17年度1人当たりの役員報酬は1930万9000円と16年度よりも+60万円、12年度からは1.13倍の伸びである。
   
ちなみに「賃上げは5年連続で今世紀に入って最も高い水準」18年10月31日、参議院本会議での安倍首相の答弁。しかし、大企業のデータでさえ、1人あたりの年収は5年間で2.7%の増。この間物価は消費税増税分含めて6%近く上がり実質賃金は12年〜17年では▲18.5万円の減、▲3.1%の減。莫大な利潤をあげている大企業でさえこの状況なので、中小、パート労働者も含めた実質賃金は、さらにマイナスであることは論をまたない。
   
第三は、「クロダミクス」と揶揄される史上最悪の金融政策の負の遺産として、要旨以下の点が危惧されている。

  1. 円安、株高、長期金利低下、これらが崩壊するリスク。また、日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による公的資金の投入が株価を支え、日銀が大企業の大株主(株式時価総額の3.5%を単独で保有)になるという資本市場の異常な構図となっている。
  2. 円安と株高の構図が崩れると、日銀のバランスシートの悪化をもたらす。「歴史上初めて、先進国の中央銀行の収益性悪化が中央銀行の信用を傷つけるかもしれない」という懸念が生じている。
  3. さらに、現在進行形として、マイナス金利政策の導入の結果、地銀など中小銀行の経営の悪化が進んでいる。これは、地方経済の疲弊を促進する。
  4. そして、最大の問題は財政政策も機能マヒに陥っていることである。財政赤字は拡大し、財政は日銀の事実上の国債引き受けで維持され、大企業や富裕層を肥え太らせる一方で、19年度予算(案)に見られる消費税増税と社会保障関連経費の削減で財政危機を乗り越えようという最悪の選択で進行している。

   
   

■3. 中期的スパンで見る現代資本主義の矛盾

図表2は、法人企業統計で見る2000年を100としてその後2017年までの企業資産の動きなどを示したものである。これは、労働者が生み出した富が何処に、どのように投資されたのか。さらに1.で述べた長期の停滞、低迷との関連で、何が言えるのか、を教えている。
   

(図表2・クリックで拡大します)
   
有形固定資産(土地、建物など)の推移は、実体経済への投資がどう行われたのかを示している。2000年代に入って増えていないどころか減っている。それとは対照的に長期保有の株式がうなぎ上りに増えている。これは債券、証券、国債などの金融商品でありいわゆる擬制資本化していることが見て取れる(この中には自社株買いもあり、それを通して株主配当の増にもつながっている)。後の現金・預金についても株式ほどではないが大企業を中心として着実に蓄積されている。
   
まず莫大な富がありながらも、実体経済に投資されていないのは何故か。これは売上がほとんど伸びていないことと関連して、グローバル競争下にあって市場が狭隘化し、より利潤蓄積を高められる市場が見いだせないということである(無論、既存の更新の投資や、省力化投資はされているが、新しい商品生産のための新規投資が少ない)。
   
別な観点から言えば、労働者、勤労諸階層が低賃金、長時間労働、十分な休暇も取れない中で生み出した結晶・富が社会の発展のために活かされていない不条理である。内部留保に至っては毎年着実に積み上げられ、その規模は国家予算の4年分に相当する。
   
この「一方の極における莫大な富の蓄積」、それも毎年確実に蓄積されている事実をして、現代資本主義の矛盾が凝縮されている。それは、莫大な富を社会発展のために有用に投資出来得ない、し得ない独占資本と安倍政権の無能さを表しているのではないか。この社会を管理、運営、発展させうる能力を持ちえない。だけでなく労働者、諸階層の「生存の不安定性の増大」、少子化による労働力人口の減など、社会発展の基礎、原動力をも壊している。この事実こそ現代資本主義の行き詰まりを表している。
   
では、どうするのか。「利潤蓄積のための生産」から、本来の人間らしい生活と文化を営むための生産、サービスの提供に向けた在り方へ転換をするしかない。その労働者の社会的な生産・管理をする能力は日々の社会的な共同労働を通して培われている。この根本的な解決に向けた方向性を再確認し、当面する国民生活擁護の経済政策・改良政策を早急に確立することが求められている。
   
   

■4. 安倍「一強」政治の綻びが露わに

経済を基盤として「アベノミクス」の破綻、行き詰まりを見てきたが、それは当然にも上部構造である「一強多弱」と揶揄される政治情勢にも反映している。その綻びの主要な点を以下確認したい。
   
第一は、史上初の米朝首脳会談が昨年6月22日、シンガポールで開催された。この会談実現により朝鮮半島で軍事的な衝突が起きかねない危機的な状況は回避された。また、米朝両国が「新たな米朝関係の確立」を目指すことを約束したことは、東アジアの冷戦構造を平和構造に転換させる大きなスタートだといえる。
   
2月末に2回目の米朝首脳会談が行われる予定である。今後の進展について楽観視はできないが、「北の脅威」を煽り、新たな安保法制で集団的自衛権の行使と海外派兵を可能にし、日米韓の軍事同盟を強化させたい安倍政権とは真逆の方向が模索されつつあるといえる。今こそ平和外交で国交正常化への努力をする時である。
   
第二は、昨年9月20日開票の自民党総裁選挙で、安倍首相は国会議員の8割を固めたが、「地方の反乱」と揶揄されたように党員・党友の45%を石破氏が獲得した(当初の安倍陣営の目標は7割)。地方における安倍政権の5年8カ月に対する不平・不満が蓄積していることの証左と言えるのではないか。その一例として、1月16日付「高知新聞」の世論調査では、内閣支持率は26.8%、不支持は倍近くの49.7%となっている。
   
第三として、9月30日投開票の沖縄知事選挙で、玉城デニー候補は沖縄本土復帰以来最多の得票で当選をした。当初は「数千票差での接戦」とのマスコミ報道。それも「自公、維新など基礎票では圧倒的な不利」(琉球新報)、「国会議員(延べ400人、秘書団200人)、地方議員、創価学会の全国動員など総力をあげた戦い」にも関わらず、8万票という大差で勝利した(無党派層の7割強が玉城氏に投票。公明党支持者の3割近く、自民支持者も2割以上が玉城氏に投票――出口調査)。まさに「県民のマグマが爆発」した結果である。
   
そして、「地方自治」を踏みにじる安倍政権の辺野古新基地建設に抗して、民意を力に建設反対の闘いが粘り強く積み上げられている。
   
第四は、安倍首相は、昨年の臨時国会で憲法審査会に自民党改憲案を提示すると主張してきた。しかし、前述した安倍政権への反抗と、全国津々浦々からの3000万人署名運動の積み上げなど国民世論の広がりによって、憲法審査会への提示を断念させた。今なお、どの世論調査でも、国民の求める課題で「憲法改正」は最下位である。このことは、国民の明確な反対の意思を示し続ければ、必ず破綻に追い込むことが出来ることを教えている。
   
最後に、安倍政権は13年の「インフラシステム輸出戦略」で、原発輸出を20年までの10年間で約2兆円へ7倍化することを掲げた。政府系金融機関を通じた政府挙げての支援計画を策定し、安倍首相のトップセールスを含め、官邸が前面に立って支援を行ってきた。
   
しかし、世界の潮流はテロ対策に加え、福島第1原発事故を機に原発の安全対策費が膨張したことを受けて、欧州などでコストが下がった再生可能エネルギーの導入が急速に進んだ。こうした情勢の変化が直近の英国を始めとしてリトアニア、インド、トルコ、ヨルダン、ベトナム、台湾などすべての計画が中止に追い込まれ頓挫した。いよいよ国内における原発再稼働反対の闘いの重要性が増している。福島の真の復興・復旧の闘いとセットでの取り組みが求められている。
   
「自民党総裁選の地方の反乱に始まった、安倍政権の終わりの始まり」「沖縄の乱は、全国に伝播する」との分析もなされているが、この流れを参議院選挙の1人区における野党共闘候補者の一本化、複数区での共闘への動きに結実させねばならない。無論、その「接着剤」の役割を果たすのはこれまでもそうであったが社民党である。
   
   

■5. 当面する労働者運動の課題

第一は、経済のところで述べたが、夏の参議院選挙に向けた安倍政権と対峙する野党共闘の共通政策づくりである。社民党又市征治党首が『月刊社会民主』1月号の巻頭言で提起されているが、特に「格差、貧困の是正」を柱とした「アベノミクス」に代わる経済政策、さらに「全世代型」社会保障改革に代わる将来にわたって安心の社会保障政策、その財源を捻出する不公平税制の是正、無論10月予定の消費税増税には反対は大前提である。
   
こうした経済政策、社会保障政策を柱とした野党共闘の共通政策を国民にわかりやすく提示し、32の1人区における野党統一候補づくりを急ぐことである。そして、なんとしても改憲勢力の3分の2阻止を勝ち取らねばならない。また、統一自治体選挙において県議選での野党共闘の模索なども、文字通り参議院選挙の前哨戦として戦う態勢づくりが求められている。
   
国会内の勢力は、いわゆる護憲派の国会議員は全体の2割弱と分析されている。彼我の力関係を見定めつつ、この戦いを通して当面する日本における社民主義勢力の基盤を残すことに全力をあげねばならない。特に、政党要件をかけての戦いを余儀なくされる社民党の奮闘・前進が求められている。
   
第二は、昨年の通常国会で強行成立させられた「高度プロフェッショナル制度」の施行が4月から行われる。
   
「タダ働き法案」と言われたが、連合は昨年の12月の中央執行委員会で、「経営者側から申し込まれても反対の姿勢で臨む」との方針を確認した。残る労働2団体も同様の方針である。導入させない取り組みが求められている。
   
「繁忙期の残業の上限規制100時間未満」は残念ながら法案は成立したが、この闘いの中で「36協定」の点検、見直しを通して長時間労働の是正という次の闘いの課題が明らかにされた。連合の調査で協定の認知度は4割程度で、締結はさらにその半分にも満たない現状をどう変えるのか、連合運動の社会的な役割が問われている。
   
安倍政権が臨時国会の“最重要法案”と位置付けた出入国管理法改正を巡って、「この問題は議論したらきりがない……」との自民党議員の発言は、議会制民主主義を否定し、国会を愚弄する態度で絶対に容認できない。短時間の審議でも明らかにされたが、目的は外国人労働者を「雇用の調整弁」にすることであり(それも短期契約、派遣契約可能な雇用形態として非正規雇用の外国人労働者をつくり出す)、それは国内の非正規労働者の雇用条件の重しとなり、より一層の雇用条件の下方平準化が進むことになる(ちなみに人の奪い合いになっているのは、月収10万円そこそこの層とのこと)。独占の要請に応じた雇用破壊以外の何物でもない。19春闘でベアを勝ちとり、最低賃金に連動させ遵守させる。長時間労働是正の闘いを労働3団体との共闘を強め、野党と連携をして取り組むことである。
   
第三は、国会での審議をよそに具体的な軍拡が進められた。イージスアショアの配備。長距離巡行ミサイル取得、無人偵察機グローバルホークの増強。さらに新防衛大綱に歴代政府が憲法違反としてきた攻撃型空母(「いずも」を改修)を保有する。そして、米国製のF-35Bステルス機・対地攻撃機の搭載を中期防として閣議決定をした。5年間の防衛装備品の取得計画を定める中期防の予算総額は27兆4700億円と過去最大となる。
   
安保法制下、「専守防衛」を建て前にしてきた自衛隊を「海外で戦争する軍隊」へと変質させるもので、米国兵器の“爆買い”含めて中止をさせねばならない。
   
この日常的に進む軍拡に反対する闘いを、「安倍政権下における改憲阻止」の幅広い闘いと意識的につなげなければならない。それは当面する「改憲発議阻止」の具体的な闘いでもある。
   
闘わざるを得ない客観的条件は述べてきたが安倍政権が否応なしに作り出す。問われていることはその条件に適応した闘う主体の戦線構築である。
   
   
(1月22日)

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