●2017年2月号
■ 来る解散総選挙にむけて
吉田 進
■ はじめに
昨年は世界が大きく動いた。先行きの見えない悲惨な戦争・テロが拡大し、イギリスではEU離脱が国民投票で決まり、アメリカではトランプ大統領が誕生した。
イギリスのオックスフォード大出版局は昨年、「今年の言葉」に「ポスト真実(post-truth)」を選んだ。客観的な事実よりも感情的な訴えかけの方が影響力を持つことを表現する単語と教えてもらった。
ポピュリズムは日本では一般的に大衆迎合主義と訳される。庶民の声を代弁していると肯定的にとらえる考え方もあるが、排外主義や経済での保護主義につながっていく傾向があり、国家間の対立激化を招く危うさを内包していると指摘されている。
根底にあるのは「格差と貧困」という資本主義そのものの矛盾であるが、その改善の方向が見えないまま世界情勢が今後どのように推移していくのか予断を許さない。深刻な問題は、こうした流れを肯定、容認する風潮が世界中を覆い国内でも広がっていることである。自己の利益のためには他者を攻撃・排除してもいいという風潮は人類の歴史を逆戻りさせるような恐ろしさを感じてしまう。
2017年、日本の最大の政治課題は解散総選挙である。予想された通常国会での冒頭解散はなかったが、いつ解散総選挙が行われてもおかしくない状況が今も続いている。しかし、この総選挙にむけた野党各党の取り組みは大きく遅れている。
その要因の一つに、昨年の参議院選挙で実現した野党共闘をめぐる問題がある。特に、民進党内の意見の違い、民進党支持組織である連合の対応が一番大きな障害になっているものと思われる。
「一強多弱」と呼ばれる自民党に対抗する野党が、バラバラで勝てないことは誰の目にも明白である。さまざまな障害を乗り越え、一刻も早く来る総選挙を野党共闘で戦う態勢を作るために、中央段階はもちろん地方からも取り組みを強めていくことが求められている。
■ 総選挙で問われるもの
昨年7月の参議院選挙では、民進、共産、社民、生活による野党共闘が1人区を中心に一定の成果を収めたものの、自民、公明両党を中心とする改憲勢力に3分の2超の議席獲得を許してしまった。
こうしたなか安倍首相は、年頭記者会見などで「70年の節目」「新しい国づくりを進めるとき」などと述べ、改憲に向けた意欲を示している。安倍首相は以前、今の憲法について「連合国軍総司令部(GHQ)が8日間で作り上げた代物」「みっともない憲法」等の発言をしている。国会の「数の力」を使って一気に改憲の具体化を目指す可能性が高まっていると見なくてはならない。
一昨年9月の安保法制強行採決をはじめ安倍首相の真の狙いを考えると、たしかに最大の争点は「安保法制廃止」「立憲主義の回復」「安倍内閣における改憲反対」等であったのだが、国民は「大きな政治」の争点化を受け入れず、景気や雇用など生活に密着した「小さな政治」を選んだとの指摘がある。野党統一候補が制した選挙区の多くも、東北でのTPP問題、沖縄での米軍基地問題など、「生活者・消費者」としての「身近な争点」が功を奏した結果である。原発問題を争点化した10月の新潟知事選挙における野党候補勝利もそのことを裏付けている。
言い方を変えれば、アベノミクスに替わる経済政策を示さない限り、世界に類を見ない速さで進む少子高齢化社会、深刻な「子供の貧困」まで生み出している格差社会のなかで有権者の支持は得られないということである。
「格差」で避けて通れないのは、非正規労働者の問題である。特に、「年収200万円以下」「結婚できない」「子供を産み育てられない」等の若者らが1000万人以上が3年連続続く状況は異常である。単に「可哀想だ」というだけではなく、この間の労働法制改悪等により社会の仕組みそのものを壊してしまった根本問題である。「格差と貧困」は、世界各国に共通する社会問題だが、日本における格差の象徴は非正規労働者と言っても過言ではない。
2009年8月の衆議院選挙では、「国民の生活が第一」「コンクリートから人へ」等の訴えが有権者から支持され、民主党政権が誕生した。しかし、その後の政権運営がうまくいかず国民は政権交代に失望した。そのアレルギー感覚は国民のなかに今も残ったままとなっているが、こうした非正規問題等に対する展望を野党共通政策として明確に示すことが重要である。
衆議院選挙は、政権への信任投票的な意味合いを持つ参議院選挙とは異なり、「政権選択」の選挙である。「安倍政権の暴走は許さない」というスローガンに示されたように、政権に対する「否定」のメッセージだけでは衆議院選挙は戦えない。具体的な共通政策を示し、政権交代についても一定の道筋を示さなければ、有権者は野党に「異議申し立て」「抵抗勢力」以上の存在価値を認めないであろう。限られた時間のなかで、野党四党は候補者の一本化はもちろん共通政策の議論を早急に押し進めなくてはならない。
■ 野党共闘の必然性
昨年の参議院選挙で野党共闘が実現したのは偶然ではない。
私は、1047名の解雇者とその家族を抱え24年間闘った元国労組合員であるが、この闘いは三池闘争と並び戦後最大の労働争議だとよく言われた。
いま思い起こすと、闘いでは二つのことが問われたように思う。一つは、労働組合の原点である。国労内では、「一人の首切りも許さない」が合言葉だったが、労働者に対する理不尽な差別・選別、首切りは容認しないという労働組合の原点を守り通した闘いであった。
もう一つは、労働者の団結・連帯であった。とりわけ、闘いの後半で「四党合意」という解決案をめぐり当事者はもちろん、国労、支援共闘も分裂状況に陥った。国労大会に機動隊が出動するという事態が続き、もはや紛争解決はあり得ないのではないかと見る人も多くいた。しかし、「この問題は何としても決着をつける」という一点で団結を回復した。言葉でいうのは簡単であるが、実際には何回も何回も集会等を積み重ね、文字どおり闘いを通じて関係者全体がまとまった。当時、これは解決に向けた「統一戦線」だと思ったが、分かり易く「大同団結」と呼んだ。「小異を残して大同につく」ことを意味する。
いま、政治の分野で戦後経験したことのない危機的な状況を迎えている。国が進むべき針路を根底から覆すような状況下で求められるのは、野党はもちろん多くの市民による「大同団結」「政治的統一戦線」であることは論を待たない。それぞれが「自分たちが唯一正しい」と言っているだけでなく、「安保法制の廃止」などの共通政策を打ち出し協力し合ったのが昨年の参議院選挙であった。その意味で、参議院選挙における野党共闘は必然であったし、この流れは次期総選挙でも問われることになる。
■ 労働運動の「復権」を
野党共闘と言っても、取り組み方によって中身は幾通りも考えられる。共通政策のもと、候補者を調整し共倒れにならないようにするという最低限のレベルから始まり、具体的戦いで協力し合うというというレベルもあり得る。「連立政権構想」までいけば一番高いレベルである。
いま問われているのは、その最低限の「入口」のところである。それすら、「野党共闘などすべきではない」「共産党とは共闘すべきではない、共闘するならば候補者の推薦はしない」というのでは一歩も進まない。野党共闘と「組織統一」について、勘違いがあるのかもしれない。共産党や社民党と「一緒になれ」と言っているのではない。民主主義や立憲主義すらないがしろにする巨大与党に対して、野党が協力しないと相手を利する結果となり、政治を変えることはできない。そもそも、違いがあることを前提にしている。しかし、違いを強調するのではなく、一致点を大事にして協力し合おうということである。
労働組合からなぜそのような議論が出てくるのか。それは、現在の労働組合運動が社会的に評価されない、組織率が17%台で低迷している原因とも一致する。私も、かつて労働組合運動に関わってきた者として忸怩たる思いはあるが、あえて述べてみたい。
例えば、原発再稼働をめぐる問題がある。関係する労働組合は、原発再稼働を主張し、参議院選挙でも「脱原発」を訴える候補者を推薦しなかった。その後の新潟県知事選挙では、原発再稼働に慎重な候補者を支持しないだけではなく、自民党などが推す候補者の支持に回った。結果は、共産党・社民党・生活の党などが推す候補者が当選した。
いろいろな考え方や労働組合としての方針があって当然だが、国民の思いや考えていることと離れて自分たちの主張をしている点に問題がある。多くの国民の思いは、「再稼働」か「脱原発」か、というように必ずしも単純ではない。
福島第一原発事故から6年が経過しようとしているが、事故直後に「この事故の処理は最低でも40年〜50年かかる」と言われたことの現実を改めて実感している。そして、大きな地震がある度に不安を募らせている。また、福島から避難している子どもたちに対するイジメや、福島県で子どもたちの甲状腺がんが異常に増え続けていることにも心を痛めている。さらに、安倍首相の「福島原発は完全にコントロールできている」との国際会議での発言、政府が先頭に立って海外に原発を売り込もうとしていること、20兆円にも膨らんだ廃炉・賠償費用を利用者にも押し付けようとしていること等を強く批判している人も多い。
こうした国民のさまざまな思いと無関係にやみくもに再稼働を主張し、反対意見に対して議論もしないまま「組合の方針だ」と言うだけでは、関係組合のみならず労働組合全体に対する不信感を拡げてしまう。
電通の過労死、長時間労働がマスコミでも大きく取り上げられたが、これは電通だけの問題ではない。多くの企業で「三六協定」が形骸化され、長時間労働の常態化を許している現状については労働組合にも大きな責任がある。「三六協定」は、「労働者代表」が「ノー」と言えば成立せず、その場合は労基法第三二条に定められた8時間労働の基本原則に立ち返る以外にない仕組みになっているからである。
今年の春闘に対し、政府や経団連は「賃上げ」と合わせ「働き方改革」等をすでに打ち出している。また、「三六協定」を締結した場合でも時間の上限を設ける検討も政府内で始まっている。これだけの社会問題になっていることから当然ではある。大事なことは、労働組合側が自らの生活・権利に関わる問題として要求を出し、国民に見える形で主体的な運動を起こしていくことであると思う。
私は、各労働組合が自らの「言い分」だけではなく、国民の声に耳を傾け、ときには会社が不利益になる場合でもコンプライアンスの姿勢や「正義」を貫き通し、そのような活動をとおして労働組合の「復権」を勝ち取ってほしいと心から願っている。
■ 各県・ブロックの取り組み強化を
すでに民進党予定公認候補となっている人たちから、「野党共闘で是非お願いしたい」との声を聞く。候補者の立場からすれば当然である。過去の選挙結果や世論調査に基づき、「野党共闘で戦えば60を超える選挙区で勝てる可能性がある」との予測も出ている。こうした状況を考えると、中央段階の野党協議が大事なのは当たり前であるが、地方からの取り組みも必要である。中央の動きを見守っているだけではだめである。また、衆議院選挙は、「ブロック比例」制度になっていることから、各ブロックにおける対策や取り組みも重要である。
私の住んでいる地域でも、1月29日に杉尾秀哉参議院議員を呼んで国会報告会を開催する。その準備に忙しい毎日であるが、実行委員会では単なる国会報告会ではなく、総選挙にむけ参議院選挙と同様の野党共闘を押し進めるための集会にしようと確認している。
大町市を中心にした北アルプス山麓の五市町村のエリアであるが、昨年の参議院選挙では、戦争をさせない1000人委員会・大北、おおまち九条の会などが呼びかけ、多くの市民団体、労働組合、退職者会等で事実上の選対を作り活動した。そして、各市町村で自民党現職候補を上回る得票を勝ち取った。ポスター貼り、個人演説会、電話戦術をはじめとする支持拡大運動を、いままで選挙を経験したことのない人たちも大勢参加してもらい取り組んだ結果であると思う。終了後の反省会で、「この組織は解散せず残してほしい」との声が多く出され、今回の国会報告会につながったのである。
従来つながりのなかった人たちをまとめるのは容易ではないが、丁寧な話し合いを積み重ねながら粘り強く進めている。そのなかで、社民党内にはない議論や運動の作り方を私自身学んだ気がする。今回の国会報告会では、「北アルプス山麓(ブルーコース)のオスプレイ飛行禁止」を求める活動を参加者全員で確認する予定である。そして、2月議会にむけ各自治体議会での「意見書採択」を取り組んでいくこととなっている。
■ 野党共闘をつうじて社民党再生の「活路」を
社民党は、先の参議院選挙で2議席250万票を目標に戦いを進めた。しかし、152万票1議席、吉田党首を落選させるという結果であった。得票率2.74%でかろうじて「政党要件」を維持した。
社民党内では、野党共闘をめぐってさまざまな意見がある。「野党共闘に埋没して比例票が増えない」「共産党と組むのは嫌だ」「民進党とは憲法に対する基本が異なる」などである。そして、参議院選挙の総括では、「運動量は低下しているが、社民党を残さなければならないという党員・支持者の奮闘が得票率を上げた」という意見も出されている。地域によって異なるが、具体的な運動ができなかった小さな町や村で社民党比例票が増えていることをみるとそのような総括だけでいいのかと思う。党員の減少、高齢化などで運動量は低下しているのに社民党票が増えたのは、野党共闘をつうじて、とりわけマスコミの影響が大きかったが、社民党の存在が有権者に示されたからだと私は思う。
もちろん、社民党が参議院選挙同様に野党共闘を押し進めていったとしても、党勢を回復することは容易ではない。しかし、現在の政治状況や国民の思いを受け止めずに、野党共闘を否定するような道に進んだとしたら党消滅の危機となってしまうであろう。野党共闘を通じて党の存在をアピールし、全党員が従来以上の努力をしていくなかで党再生の「活路」を見出す以外にない。これは社民党に限ったことではなく、他の野党も「後戻り」をしたら国民から批判され信頼を失う結果となるであろう。
社民党が掲げる社会民主主義の理念、政策に確信を持ち合い、粘り強い行動の積み重ね、党員の拡大、支持労組との連携強化、地方議員の拡大など、従来に増した活動が求められることは言うまでもない。
長野県における参議院選挙は全国一の投票率に象徴される激戦区であったが、敗れた自民党は次のような総括をしている。「無党派層の動向を日頃からつかんで運動しなければいけない」「企業で従業員に支持を呼びかける際に上から目線になってしまった」「組織に頼る運動だけでは1人区の戦いは勝てない」等々である。このような総括をしている相手側の底力を感じると同時に、「企業」を「労組」に置き換えれば、そのまま社民党にも当てはまる重要な問題だと思う。再度、原点に立ち返って「なぜ社民党か」「なぜ野党共闘か」を党機関、支持労組などと丁寧に議論を積み重ねていかなければならない。
そして、当面する最重要課題として、野党共闘を基本とした総選挙態勢確立を急がなくてはならない。
(2017年1月19日)
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