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●2014年4月号
■ 「壊憲」安倍内閣に大衆運動で反撃しよう
   社民党幹事長 又市征治

   

社民党は、2月22〜23日に第14回定期全国大会を開催した。「結党以来最大の危機に直面している」現状認識に立ち、向こう2年間、組織の足腰を鍛え、統一自治体選挙・中間選挙で仲間を増やし、どう次期国政選挙に勝ち抜ける党づくりを進めるか、党の何を改革するかを中心に、31名の代議員から発言があった。発言の多くは各地での活動を踏まえた建設的積極的な内容であり、たいへん良い雰囲気の大会(村山名誉党首談)であった。
   
日本の政治はいま戦後最大の岐路に立っている。社民党がこれ以上国政の場から後退することは許されない。大会直後の全国連合常任幹事会では、決定された方針と大会論議を踏まえ、当面、集団的自衛権行使容認の解釈改憲を阻止する闘いをはじめ原発再稼働反対・脱原発の闘い、労働者保護法制の順守・非正規労働者の待遇改善の闘い、反基地・反軍拡の闘い――の4本柱を中心に、党が全国で前面に出て大衆運動を起こし、これらの課題で一致する政党、労働組合や市民団体と共にその実現を目指すことを確認した。紙面を借りて全党員の皆さんに決起を要請したい。
   
   

■ 解釈改憲にひた走る安倍政権

・(1) 歴代政権は、わが国の自衛権について、長年の国会論議も踏まえて以下の政府見解を取ってきた。
   
まず、「戦争放棄と戦力の不保持・交戦権否認」を規定する憲法第九条の下における自衛権については、

  1. わが国に対する急迫不正の侵害があること、
  2. 他にこれを排除する手段がないこと、
  3. 防衛は必要最小限の実力行使にとどまること

の三要件を満たす場合にのみ認められる――との見解を示してきた(1969年の内閣法制局長官答弁)。
   
その上で、集団的自衛権については、「我が国が、国際法上、集団的自衛権を有していることは主権国家である以上当然」であるが、「憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」との見解を表明し(1981年5月29日の政府答弁書)、以来30年余にわたってこの憲法解釈が定着してきた。
   
・(2) ところが、安倍首相は2月5日の参議院予算委員会で、集団的自衛権の行使は「政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能」であり憲法改正は必ずしも必要でないと答弁し、また同12日の衆議院予算委員会では、「最高責任者は私であり、政府の答弁に私が責任を持って(判断し)、その上で選挙で国民から審判を受ける」と強弁するなど、確定してきた憲法解釈を変更する決意を示したのである。選挙に勝てば、法理に基づく歴代政権の憲法解釈を勝手に変更できるとする考えは、「憲法は政治権力を縛るもの」という立憲主義を否定する思い上がりであり、断じて認めることはできない。
   
・(3) 周知のように、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を唱え、憲法改正で「戦争ができる国づくり」を信念としている人物である。衆院選に続き昨年の参院選でも大勝したことから、憲法改正の好機到来と考え、日本維新の会などを取り込んで憲法第九六条の先行改憲(憲法改正の発議要件を両院議員の2/3から1/2に緩和)を目指したが、国民世論の反発から断念のやむなきに至った。そこでなし崩し改憲・解釈改憲をさらに押し進め出したのである。
   
具体的には、昨年末の臨時国会で、米国との軍事協力を強化するための外交・安全保障の司令塔である「国家安全保障会議設置法」と国民の知る権利や表現の自由、取材・報道の自由に大幅な制限を加える「特定秘密保護法」を強行成立させた。これを受けて、初の「国家安全保障戦略」とこれを支える新「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」を閣議決定し、「武器輸出三原則」を緩め、沖縄県知事に札束を積んで米軍普天間基地の辺野古への移設(埋め立ての承認)を呑ませるなど、矢継ぎ早になし崩し改憲を進めた。
   
もう一方では、集団的自衛権の行使容認に向けて、内閣法制局長官を容認派にすげ替え、またすべて容認派による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を設けてきた。安保法制懇が4月に出す報告書に基づいて今国会中にも「行使容認」の閣議決定を行い、秋の「日米ガイドライン(防衛協力の指針)」の改定に間に合わせようというのである。
   
このような解釈改憲は、かつてドイツで「全権委任法」を押し通してワイマール憲法を無力化した「ナチスの手口」を真似て憲法九条を無力化する企みである。
   
なお、今日問題となっているNHKの籾井会長と一部経営委員の言動もNHKの右寄り偏向を策する安倍人事に起因している。
   
(4) 集団的自衛権の行使が可能になればどうなるか。かつてのアフガニスタンやイラク戦争の時、小泉内閣は特別措置法を強行して自衛隊を多国籍軍の後方支援に派遣したが、集団的自衛権が禁じられているから「武力行使はしない、戦闘地域には行かない」との条件付きであった(それでも名古屋高裁は08年4月、「後方支援といえどもイラク派遣は違憲」と判決した)。だが集団的自衛権の行使が可能になれば、両戦争のような事態が起こった場合、わが国に対する武力攻撃がないにもかかわらず、自衛隊は海外の戦争に参加し、他国の人々を殺し自衛隊員も殺傷されることになることは明らかである。
   
これは、平和憲法に基づいて専守防衛に徹し、非軍事的手段で平和構築と国際貢献を行う国として世界から尊敬と信頼を得てきた戦後日本の歩みを大転換する暴挙である。
   
・(5) そもそも憲法とは、「主権者たる国民が政治権力を規制し、銘記された平和や人権条項の実現を図るもの」、つまり国家権力を縛るものであり、これが立憲主義である。だから、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とする憲法第九八条、国務大臣や国会議員その他公務員に憲法を尊重し擁護する義務を課す第九九条で政治権力を縛っているわけだが、安倍内閣はこれを無視するというのであるから、まさに立憲主義を否定する反動政権と言う他ない。
   
集団的自衛権の行使がどうしても必要なら、解釈改憲という姑息な手段でなく堂々と憲法九条改正を国民に問うべきだ。もちろん社民党は改正には断固として対決する。
   
(6) 安全保障の要諦は「敵を作らず、敵対する国を中立化し友好国化すること」にあるが、安倍首相は、軍国主義の象徴たる靖国神社参拝をはじめ歴史認識を逆行させる言動を取って近隣諸国との関係を悪化させ、尖閣問題や中国の軍拡を口実に中国包囲網づくりに奔走している。それで「話し合いの窓口はいつも開けている」などとうそぶく姿勢は外交とは言えない。偏狭なナショナリズムに基づく愚策である。だから欧米諸国でも安倍首相の言動を「歴史修正主義に基づくナショナリズム」「民主主義の世界標準からすれば『極右』だ」「恐ろしく非民主的かつ反立憲主義的」など日本の外交安保政策を不安視する声が強まっている。
   
社民党は、2001年に、もし北東アジア地域で揉め事が発生しても決して武力行使はしないことを目指す『北東アジア総合安全保障機構』構想を発表し、中国、韓国、モンゴル政府などと大筋合意してきた。それは2005年の『6か国協議に関する共同声明』に一定反映された。今日、政府にはそうした積極的な平和外交こそが求められる。
   
   

■ 改憲姿勢は社会・経済政策にも現れる

・(1) こうした憲法無視の安倍政権の姿勢は社会・経済政策にも表れている。
   
安倍内閣の経済政策アベノミクスは、大企業が儲かればその成果が国民にも滴り落ちるという、既に小泉「構造改革」で破綻したトリクルダウン理論に基づいている。
   
「大胆な金融緩和」で30%近い円安が起こり、輸出大企業は売り上げを伸ばすが、過剰生産と内需停滞下に投下される資金は設備投資などよりも投機に回り、一方で輸入原料高・物価高と消費税増税で国民生活を直撃する。また、「機動的な財政出動」は公共事業のバラマキで無理やりGDPを押し上げ、来年の消費税増税につなげる策である。そして「成長戦略」は、国家戦略特区法や産業競争力強化法に見るように、大企業のために一層の規制改革や減税策をとる一方、安上がり労働力づくりに向けて、どんな仕事でもずっと派遣労働者を使い続ける派遣労働法の改悪や、解雇をし易くする限定正社員制度などを企図している。
   
したがってアベノミクスは、さらなる国民生活や雇用の破壊と格差拡大、一層の財政危機、それが増税や社会保障の改悪に連動する公算が大である。
   
・(2) そもそも長期のデフレ病は、日本の企業が1997年からの15年間に民間賃金を平均59万円・13%(公務員は特例減額を除いて18%)も引き下げ、非正規雇用を2000万人(全勤労者の38.2%)にも拡大して収益を上げ続けたが、この間、資本金1000万円以上の企業が配当金を3.31倍、利益剰余金を2.14倍に増やした結果、個人消費が低迷し内需が停滞したことが原因である。だからデフレ脱却の処方箋は、来年度消費者物価上昇見込み3.2%を上回る賃上げ、非正規の正規化・均等待遇、最低賃金引上げと中小企業支援策などによって国民の所得を増やすとともに社会保障拡充で安心感を高めて、個人消費と内需拡大を実現することだ。そのためには院内外で社民党、民主党、連合が連携を強化することが重要だ。
   
・(3) 案の定、「社会保障拡充のための消費税増税」のウソもはっきりした。成立した社会保障改革プログラム法は、昨年来の生活保護費6.5%や年金2.5%の切り下げに加え、70〜74歳の医療費自己負担を2割に、介護の一律1割自己負担を一定収入以上の世帯は2割負担に、介護の「要支援1、2」は介護保険適用除外など、改悪オンパレードである。しかも安倍内閣は、震災復興増税で庶民には25年間所得税2.1%の上乗せ、10年間個人住民税1000円上乗せを存続しながら、3年間の特別法人税を1年前倒しで廃止し8000億円も免除する露骨な大企業優遇策をとる。私たちはこれに断固反対し、その財源を生活保護費や年金削減を中止し、また最低賃金引き上げのための中小企業支援策に回すべきだと主張してきた。本気に怒りの声を上げなければ、10%を超える消費増税や更なる法人税減税が押しつけられよう。
   
・(4) 福島第一原発事故は原因究明もなく、収束どころか依然深刻な状態で、14万人余りの避難者の生活破壊と将来不安は計り知れない。ところが安倍内閣は口先では「福島の復興なくして日本の再生はない」と言いながら、避難者はじめ国民多数の声に背を向けて「エネルギー基本計画」では原発を「ベースロード電源」として、活用し続けるとしている。自民党は総選挙で「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を公約したが、それも翻したのである。
   
原発事故の危険性と共に、溜まり続けた1万7000トン余りの使用済み核燃料の処理が大問題である。再稼働はこれを増やし続けることである。これが無害化するまで約10万年、地殻変動の激しい日本に安全に貯蔵できる場所はなく、最終処分場は決められない。今後、その処理にかかる莫大な国民負担(電気料金と税金)が押し付けられるが、それでも「絶対安全」の保証はない。にもかかわらず安倍首相自ら原発輸出のトップセールスを行って各国の国民からひんしゅくを買っている。儲け優先の無責任な企業論理への迎合である。「脱原発基本法」制定に向け、さらに世論形成の取り組みが必要である。
   
・(5) TPP(環太平洋経済連携協定)とは、「2015年をめどに加盟国間で取引される全品目の関税全廃を目指す枠組み」である。これに参加すれば国内の農畜産業をはじめ医療・国民皆保険制度、医薬品認可、食の安全基準など21分野が海外との競争にさらされ、国民生活に甚大な悪影響を与える。だから私たちは、世界の成長センター・アジア諸国との実状に合った相互互恵の経済連携こそ推進すべきだと、反対してきた。
   
安倍内閣が、「関税全廃」を承知の上で交渉に参加しながら、「聖域なき関税撤廃は前提でないことが明確になった」などと重要項目の関税が維持できるような幻想を振り撒いてきたために今日の交渉の「難航」がある。今後、それを打開するためと称して、年数をかけた関税引き下げでの決着を狙っていると見られる。
   
わが党は、昨年4月の衆・参農林水産委員会での「農林水産分野の重要5品目などの聖域の確保を優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退を辞さないものとする」との決議と、「聖域なき関税撤廃反対」で、一致できる政党・政治家、関係団体と共にTPP交渉からの脱退、国会での協定批准阻止に向けて取り組む。
   
   

■ 野党共闘と大衆運動の強化を

・(1) 一致できる課題での野党共闘を追求する。
与党は衆・参両院で過半数を制しているが、各種の世論調査では、景気回復(暮らし・雇用の改善)、社会保障拡充、消費増税反対、脱原発、集団的自衛権容認反対などが国民多数の声であり、安倍内閣の諸政策と大きな「ねじれ」がある。社民党は、この矛盾を厳しく追及し、これら国民的諸要求の実現に向けた大衆運動の強化を呼びかけつつ、一致できる課題での野党共闘を粘り強く追求する。
   
先の臨時国会でも、参院段階でわが党は「秘密保護法案の賛否はともかく、慎重審議」を呼びかけ全野党共闘が実現した。今後、特定秘密保護法廃止や集団的自衛権行使容認の解釈改憲反対はじめ、脱原発、反TPPなどでの野党共闘を困難な条件もあるが粘り強く追求していく。
   
・(2) 野党共闘を支える院外大衆運動の強化が不可欠
労働組合が経済的・政治的を問わず国民的諸要求を掲げて大衆運動を強化し、課題で一致する野党と連携してその前進を図ることが期待される。特に今春闘は、3.2%の消費者物価上昇が見込まれる情勢だけに、組合員の期待は高い。組合員の生活や労働の実態に基づく要求を掘り起こし、4〜5%の積極的な賃上げと非正規の正規化・均等待遇、企業内最賃引き上げ、消費税増税や社会保障改悪反対などを企業や政府・当局に要求し、全組合員参加の闘いで実現を迫ることが大事であろう。これを基礎に職場で活動する党員は、日本の将来にかかわる集団的自衛権や原発問題などの学習を広げる努力をしてほしい。
   
・(3) その過程で社民・リベラル勢力の結集を目指す。
今後、集団的自衛権行使容認、原発推進、消費税増税、TPP参加などの安倍政治への不満や怒りが広がらざるを得ない。だから、こうした国民的諸課題の実現を目指す院内・外の運動が前進するならば、「大企業や富裕層優遇・国民犠牲、戦争のできる国つくり」を進める安倍内閣の本質が国民に実感されていく。それは護憲・脱原発・国民生活向上などで一致する政治勢力の結集を求める声を拡大させるし、社民党はそれを目的意識的に追求していく。
   
次期参院選まで約2年の間に、緊密な野党連合となるか、あるいは新たな社民・リベラル政治勢力の結集に発展するかは、重要政策の一致や労働運動などの高揚いかんである。その中心軸は、「平和・自由・平等・共生」の理念の実現を目指し、安倍政権の新自由主義・改憲路線と対峙する社民党や、勤労者の要求を理解する勢力が担わねばならない。社民党は、そうした勢力との連携強化に努力していく。
   
・(4) そのためには、党の改革、とりわけ足腰の弱さを克服しなければならない。国民的諸課題を周りの人々・団体に働きかけて運動を起こし、その中で党の再建・再生を図ることが重要だ。当面、「戦争をさせない1000人委員会」運動と固く連携しその中軸を担い、集団的自衛権行使容認の解釈改憲反対の大キャンペーン(署名、街頭演説、講演会など)を4〜6月に全国一斉に展開し、その中で党の存在感と党勢拡大につなげ、それを1人でも多く自治体議員を増やすことに結実させたい。
   
・(5) 憲法第一二条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と規定している。まるで今日の政治反動を想定したかのようである。憲法第一二条は、国民一人ひとりに、憲法第二五条に保障された「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現するために、そして第九条に基づいて専守防衛に徹し、非軍事的手段によって平和を構築し国際貢献を行うという誇らしい国を守るために、今こそ安倍暴走政治と闘えと督励している。
   
(3月18日)
   

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