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●2013年5月号
■ 参議院選挙の争点と政策課題
   社会民主党政策審議会長 吉田ただとも
 

■1. はじめに〜参議院選挙の意義

第23回参議院議員選挙の投開票日として有力視される7月21日まで100日を切った。社民党は、「強い国よりやさしい社会」をキャッチフレーズに、安倍政権に対決し、暮らしと雇用の再建、脱原発の実現、反TPP、そして何よりも改憲阻止のために全力で戦い抜く決意である。
 
さて、「猫をかぶって参院選までとは言わないが、参院選に勝たないとやりたいこともできない」(石破茂・自民党幹事長)というように、いまはタカ派色を薄めて「安全運転」に徹している第二次安倍内閣だが、衆院で改憲派が76%を占めたことに意を強くしており、ひとたび参議院での与党過半数獲得を許せば、自衛隊の増強、日米軍事同盟の強化、米軍普天間基地の辺野古移設、従軍慰安婦問題の見解見直し、国家主義的教育などの政治の右傾化、生活保護カットや消費税増税などの反国民的政策に一層拍車がかかることになる。さらに、3分の2以上を制して長期安定基盤を確立することになれば、まさに改憲発議にかかわる憲法九六条の改悪に取り組み、次いで自衛隊を「国防軍」に変え「集団的自衛権の行使」に踏み切り、合わせて国民の諸権利を抑制する憲法そのものの全面改正に踏み出すだろう。安倍政権に白紙委任状を渡すことは絶対阻止しなければならない。
 
同時に、こうした情勢にあるからこそ、「党存続の崖っぷち」に立たされ、参院選の結果によっては、解党に追い込まかねないほどの危機にある社民党にとっても大事な選挙である。160万票を取り返し上積みをはかり、比例区で3議席を獲得し、新自由主義・新保守主義に反対する政治勢力を糾合した広範な改憲阻止統一戦線の中軸政党として、橋頭堡を築かなければならない。
 
 

■2. 参議院選挙政策の考え方

参議院選挙における選挙公約や選挙政策については、各党とも5月の連休明け以降に策定作業が本格化する方向である。社民党も5月12日の政策セミナーに第一次案を提案し、候補者や自治体議員、地方組織の生の声を聞いて、豊富化していくことにしている。
 
これまでのマニフェストに当たる選挙公約は、「総合版」と「ダイジェスト版」の2種類を作成することとし、その準備を進めている。「総合版」は、支持団体の要求も踏まえつつ各テーマの個別政策を網羅的に掲載する、総合政策ガイド的な位置づけのものである。一方、実際に配布する機会が多い「ダイジェスト版」は、柱立てを工夫しつつ、わかりやすく、体裁、デザイン、内容等を一層工夫した戦略的なものとなるよう企画している。
 
そして総選挙総括を受けて、自治体議員や地方組織、現場の党員の活動や経験、意見を活かすべく、政策セミナーでの意見や、インターネット等を活用して、「政策コンテスト」・「パブリックコメント」を実施することでまとめあげていく方向である。また、関係団体や労働組合、NPO等、学者・文化人・専門家の提案・意見を選挙公約に取り入れるため、各種の団体との政策懇談会を随時実施するとともに、学者・文化人とのネットワーク作りを進めている。
 
以上のように、現時点で社民党の参院選の政策はまだ作成途上にある。しかしせっかくの機会でもあり、憲法改悪阻止、消費税増税反対を含むくらしと雇用の再建、脱原発社会の実現、反TPPの4つの大きな争点に沿って、現時点での基本的な政策の柱を示してみることにしたい。
 
特にくらしや景気について有権者の関心が強いことから、アベノミクス批判、復興や地域の再生、格差是正、教育と社会保障の再生、雇用の規制緩和問題、待機児童や特養待機者問題を中心に訴えていきたい。
 
 

■3. 憲法の三原則を遵守し、憲法の保障する国民の諸権利の実現

高い支持率に慢心したのか、政権与党の自民党は、ついに憲法改正を参院選のテーマとして持ち出してきた。
 
すでに1月31日の参院本会議で安倍首相は、歴代首相の中で初めて「(改憲案の発議要件を衆参両院議員の3分の2以上の賛成から2分の1に下げる)憲法第九六条の改正に取り組んでまいります」と言及した。さらに衆院予算委員会の答弁で、「まず九六条を変えて、新しい憲法をつくることが可能になれば議論が活発になる」などと強調した。菅官房長官も4月7日の講演で、憲法九六条の改正について「参院選では争点になるだろう」と発言している。日本維新の会の橋下代表も「参院選で憲法改正は大きなテーマになる。争点化したい」と語っている。
 
こうした動きに対し、民主党も細野豪志幹事長が憲法改正問題について「参院選の大きな争点のひとつになる」と語り、九六条改憲には反対しながらも、党独自の憲法改正草案の策定の検討に入った。
 
九六条改憲先行といっても、昨年の総選挙で、自民党は「憲法改正草案」に基づき、集団的自衛権の行使の容認や国防軍の設置を公約しているところからも、将来の九条改正を目指していることは間違いない。実際、自民党の石破茂幹事長は、九六条改正が国民投票にかけられた場合に「国民は(九条改正を)念頭に置いて投票していただきたい。国の在り方が変わるという認識を持って(投票すべきだ)」と述べ、九六条改正は、将来的な九条改正を視野に入れた対応だとの認識を表明している。衣の下の鎧はもろに出ている。相手にとって不足はない。社民党は、断固受けて立つ決意だ。
 
立憲主義をないがしろにする九六条改正に強く反対し、「平和主義」、「国民主権」、「基本的人権の尊重」の憲法三原則を遵守するよう求めていく。個人の幸福追求権や生存権、平和的生存権が危なくなっていることも訴えていく。
 
さらに、日米同盟強化に反対し、沖縄の負担軽減、基地の整理・縮小を最優先にオスプレイの配備撤回と普天間基地の「県外・国外」への移設に取り組む。日米地位協定の全面改正を求め、「思いやり予算」も段階的に削減する。北東アジアの非核地帯化と地域の安全保障機構創設を目指す。政府への批判を封じるための秘密保全法の提出に反対する。
 
 

■4. くらしと雇用の再建

デフレ脱却と円高是正を目指し、安倍政権の推進する、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」の経済政策は、「アベノミクス」と呼ばれ、株高や一定の円安など効果が出ているかのようだ。
 
しかし、異次元の金融緩和、法人税減税と規制緩和といった大企業優遇、国土強靱化という名の公共事業の大盤振る舞いによるゼネコン対策が何をもたらすのか。企業も銀行もカネ余りの時に日銀券を増発しても実体経済への効果はない。結局、資産家向けに株や土地のバブルを引き起こすだけで、喜ぶのは富裕層である。一方で、弱者ほど、賃金も上がらない中で円安でガソリン代や電気料金、輸入食品が値上がりし、暮らしはますます苦しくなる。富裕層を優遇し、勤労国民や社会的弱者への負担転嫁を強いることに加え、日本経済・財政そのものを破滅させかねない「アベノミクス」の問題点・危険性をしっかり訴えていく。
 
特に、弱者に厳しい逆進性があり、中小企業へも悪影響をもたらす消費税率の引き上げを凍結すべく、消費税増税廃止法の制定を訴える。そして、消費税をはじめ給料1カ月分が吹っ飛ぶ国民負担増が襲ってくるリアルな問題をもっと国民に喚起していく。
 
また、成長戦略も、株式会社の農地取得や混合診療解禁など、財界・大企業の露骨な利潤拡大要求が目白押しであり、解雇の金銭解決ルール、ホワイトカラー・イグゼンプションなどの雇用分野の一層の緩和が打ち出されている。要するに「大企業が儲かればよい、格差は当たり前で、苦しかったらもっとがんばれ」という新自由主義むき出しの政治の復活である。
 
社民党は、雇用問題を重視し、同一価値労働・同一賃金原則を確立し、雇用形態による差別、男女差別をなくし、雇用の平等を徹底する。「いのち」(介護、医療、福祉、教育)と「みどり」(農林水産業、環境や自然エネルギー)分野へ重点的に投資し、働きがいのある人間らしい仕事を作り出す。
 
GDPの6割が個人消費であり、デフレ脱却には、15年連続で下げられ続けてきた勤労者の賃金や、全勤労者の35%超にも増大した非正規労働者、その一方で資本金10億円以上の大企業の利益剰余金が273兆円にも上る現実を直視し、積極的な賃金の引き上げや安定雇用の拡大、均等待遇や1000円以上の最低賃金の実現、消費税増税の撤回、社会保障の充実による将来の安心の確保を通じた個人消費の拡大が有効である。「アベノミクス」に代わる、いわば「家計を温める経済対策」の実現を求めていきたい。
 
今日の財政危機の要因は、大企業や富裕層へピーク時から18〜19兆円も減税してきた優遇税制や野放図な大規模公共事業にある。不公平税制の是正や不要不急の事業削減を図る。
 
社会保障制度は、憲法第二五条の理念の実現を図る立場で改革を進める。社会保障の空洞化の大きな要因である雇用の空洞化や格差・貧困の拡大の防止に取り組む。特に、認可保育園に申し込みをしたが、子どもの入園がかなわなかった多くの親たちの異議申し立てが広がっている。子どもや子育て支援に関する予算を拡充し、国有地の活用などで認可保育所を増やし、待機児童問題を解消する総合的なプランをまとめたい。また、子どもの貧困の解消、児童虐待の防止・根絶に全力で取り組む。きめ細かな相談体制の整備などいじめ対策を強化する。「子どもの権利基本法」を制定する。学級生徒数は20人をめざし、当面、30人以下学級の早期完全達成をはかる。若者の就労支援を強化する。
 
選択的夫婦別姓や婚外子差別の撤廃など民法改正を実現する。
 
争点として、道州制が取りざたされているが、まずは今の二層制の元で分権・自治を徹底する必要がある。社民党は「創造的地域社会」を目指し、市民自治を基本にすえた「地方自治基本法」の制定、住民投票の制度化、現在6:4となっている国税と地方税の割合を当面5:5にすることなどに取り組む。地域公共サービスを守るためにも、「デフレ脱却」に反し、地域経済にマイナスとなる、地方公務員給与の削減に反対する。ILO勧告に基づく、民主的で透明な公務員制度を目指した改革を進める。
 
その他、年金は、自分の所得が年金受給に反映される「所得比例年金」(財源は保険料)と、社会が支える「基礎的暮らし年金」(財源は税金)を組み合わせ、単身で月8万円の年金を保障する制度を検討する。地域医療を守り、特に、救急・産科・小児科・麻酔科などの医師不足の解消に取り組む。医師、看護師、福祉や介護職員の増員・待遇の改善を行う。「後期高齢者医療制度」を廃止する。
 
障がい当事者参加のもとで、障がい者にかかわる制度改革を行う。貧困の削減数値目標を定めて、総合的な貧困削減に取り組む。最後のセーフティネットである生活保護費の削減に反対する。生活に困窮する人々を個別的・継続的に支える「パーソナル・サポート(個別支援)」サービスを確立する。
 
交通基本法を早期に制定するとともに、生活交通への支援を強化し、「交通弱者」、「買い物弱者」の不便をなくす。老朽化した社会資本の更新対策を進める。中央集権・効率重視・ハード中心の開発型復興ではなく、コミュニティとソフトを重視した分権型の人間の復興を実現する。
 
 

■5. 脱原発社会の実現と自然エネルギー推進

長年にわたる自民党政権の原発推進政策、まさに「原発安全神話」が未曾有の東京電力福島第一原発事故で破綻したにもかかわらす、安倍内閣はその責任も無自覚なまま原発推進の道をとっている。しかし、福島第一原発の事故はいまだに収束していない。放射性物質は拡散し続け、放射能汚染も広がりを見せている。事故の収束と放射性物質の拡散や汚染の拡大防止、原因究明に全力を挙げる。最近地震が頻発しているが、地震大国日本では原発とは共存できない。また使用済み核燃料1.7万トン(広島型原爆換算で120万発相当)の処分方法も場所も決めることもできないまま、子どもたちに核のごみのツケを残してはならない。
 
社民党は、3月11日、生活の党やみどりの風とともに、「脱原発基本法案」を参議院に提出した。2020年から2025年の3月11日までのできる限り早い時期に「原発ゼロの日本」を実現していきたい。
 
原発再稼働に反対し、核燃料サイクル・再処理を中止する。再生可能なエネルギーの開発に政府を挙げて取り組み、自然エネルギーの割合を2020年までに30%、2050年までに100%を目指す。環境分野への投資を増やし、バイオマスなど、地域循環型の自然エネルギーを大幅に普及し、雇用をつくり、地域振興を図る。食品安全、放射性廃物対策を強化する。福島からの避難者は16万人を超えている。原発からの避難者、特に子ども被災者支援法に基づく施策を強力に推進する。廃炉促進を支援する法律や原発に変わる地域振興のための法制定を行う。脱原発を実現するためにも、与党を勝たせてはならない。
 
 

■6. TPP参加反対、アジア諸国との経済連携の強化

安倍政権はTPP(環太平洋経済連携協定)参加に前のめりとなっている。しかし、TPPは、安倍首相が「あるべき社会像」とした「農山漁村の豊かな資源が成長の糧となる、地域の魅力があふれる社会」とは真逆の選択であり、農業を破壊するだけでなく、国内産業や国民生活に大きな悪影響をもたらしかねない。我が国の主権を侵害するISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)が盛り込まれている「平成の不平等条約」である。TPPは、日本への輸出拡大を実現できる米国にとってこそメリットが大きく、日米同盟を深化させるためにアメリカ主導のTPPに入る必要はない。社民党は日本を売り渡しかねない、TPP参加に断固反対する。
 
しかも日程的にも、農産物の重要品目の例外措置など、日本の主張が満足に反映される保障は全くない。外交能力にも疑問が残る。
 
また、農業以外の保険や食品安全、公共調達などの問題も訴えていく。海外企業との激しい競争にさらされる中小企業に大きな影響が出る。労働者の移動自由化は、賃金の安い国が基準となり、労働者の賃金低下、内需の縮小をもたらしかねない。
 
日本の輸出相手国は、TPP不参加の中国・韓国・台湾・香港・インドが主力であり、「ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス日中韓」など、東アジアを中心に各国の食料主権や多様な農業基盤を守る、真に公正で柔軟、相互互恵的な経済連携を進める。
 
TPPに打ち勝つためにも、食料・エネルギーの自給、地産地消、地域分散型の経済システムなどを広げていく。食料自給率は「2020年に50%以上」を目指す。農林漁業に本格的な直接支払制度を創設する。世界の成長センターであるアジア諸国との経済連携を重視し推進する。  
 

■7. 闘うのは今

昨年12月の総選挙で自公政権が復活したとはいえ、多くの国民は、憲法九条を改悪して自衛隊を「国防軍」に変え、日本を「戦争のできる国」にすることを望んではいない。新自由主義構造改革によって国民の生活と雇用が悪化し、地方が疲弊し、社会保障・福祉が後退している下で、暮らしの向上や雇用の安定、景気の回復を求めている。原発の稼動に不安を高め、原発に依存しない社会の発展を望んでいる。
 
国民は、将来の日本の姿として、戦争する国・できる国ではなく、「北欧のような福祉を重視した社会58.4%」(「日本の社会未来像に関する調査」)、「平和国家34.6%、福祉国家33.2%」(『政治意識』に関する全国面接世論調査)を思い描いている。今度こそ労働者や生活者重視の政策への転換が必要である。憲法が国民に保障した諸権利が開花する社会を作るため、社民党宣言で掲げた「平和・自由・平等・共生」の現実化に愚直に努力しよう。
 
安倍首相が強調する「戦後レジームからの脱却」とは、大戦の反省に立ち、二度と戦争はしないという決意の下で生まれた現行憲法の国民主権・平和主義・基本的人権の尊重を柱とする価値観を否定し、戦前の旧体制に戻ることに他ならない。自民党のスローガンである「日本を取り戻す」は、私たちから平和憲法を取り戻すことである。私たちの先輩が築き、今日まで受け継がれてきた、平和と民主主義そのものが危うくなっている。
 
安倍政権への政策的対抗軸は、社会民主主義であり、戦後一貫して、平和憲法にこだわり、働く者と平和のために闘ってきた社民党こそ、受け皿だ。ぜひとも護憲の議席、働く者の議席、社会的に弱い立場の皆さんの声を届ける議席、市民と国会をつなぐ議席を守りきらなければならない。自治労宮崎の先輩の言葉、「経営者側の政党が強いからこそ、働く者の側の政党が強くないと、平和と民主主義は守れないし、働く者や社会的に弱い立場におかれている人々の生活はよくならない」ということを今、強く実感している。最近のミニ統一選挙で、宝塚市長選で元社民党議員の現職が維新をたたきのめし、丸亀市長選でも元社民党県議の新人候補が圧勝、青森市長選挙で脱原発派の現職が勝利するなど、潮目も変わってきている。憲法改悪を阻止し、希望の持てる未来を目指して、参院選、悔いのない闘いをしていきたい。
 

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