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●2009年10月号
■総選挙の結果と新政権の課題
  佐藤 保
     

■ 民主党圧勝は怒りの爆発

 今回の衆議院選挙(8月30日 投開票)で、自民党は、前回05年の296議席から119議席へ激減し、第一党の座を失った。公明党も、31議席から21議席へ、大きく減少し、結党以来、最低の議席となった。
 
 このような自民、公明両党の大敗は、自公政権にたいする民衆の不満と怒りの激しさ、すさまじさを示している。
 
 自公政権にたいし、野党として、これを批判し、対抗していた、民主党、社民党、共産党などのうち、社、共両党は共に、前回と同数の議席に終わったが、ひとり民主党だけが、大きく躍進した。民主党は、前回05年の113議席から、308議席へ激増した。
 
 このような、議席の大変動の結果、自公政権は退場せざるをえなくなり、1955年の保守合同以来、ごく短い期間を除いて、政権党として、執行権力を独占していた自民党は、政権の座を追われ、野党となった。
 
 自民、公明両党の敗北、とりわけ自民党の大敗の原因はなにか。
 
 一言でいえば、05年の郵政選挙で手にした衆議院の圧倒的多数の上にあぐらをかき、デマゴギッシュな手法で国民をだまし続け、また、この圧倒的多数の力で、新自由主義に立つ、弱い者いじめの「構造改革」を強引におし進め、国民生活とりわけ労働者、勤労者の生活と権利を破壊し続けた自民党、自公政権にたいする、民衆の不満と怒りの爆発であった。
 
 そして、民主党の圧勝は、ちょうどその裏返しであった。
 
 有権者は、民主党の政策に共鳴して、なだれを打って民主党に投票したのではない。そのことは、世論調査から明らかである。
 
 たとえば、朝日新聞社の世論調査によると、民主党の公約の目玉とも言える、子ども手当を支給して所得税の配偶者控除などを廃止することに「賛成」は31%、「反対」は49%。また、高速道路を無料化して建設の借金は税金で返済することに「賛成」は20%、「反対」は65%。さらに「有権者が政策を支持したことが民主大勝の理由」とみるのが38%にたいし、「そうは思わない」が52%となっている。民主党大勝の要因については、「有権者の政権交代願望が大きな理由か」という問いに81%が「そう思う」と答え、「政策への支持が大きな理由か」との問いには「そう思う」が38%にすぎない(朝日新聞 9月2日 朝刊)。
 
 以上のことからも明らかなように、民主党圧勝の原因も、自民大敗の原因と同じ、自民党、自公政権にたいする有権者の不満と怒りの爆発であり、政権交代願望であったことは、まちがいない。
 
 民主党が、このことを謙虚にうけとめ、国民の願望に誠実に取り組まなければ、ただ単に、民主党が今度の自民党と同じような痛い目にあうというだけでなく、日本の民主政治に重大な打撃をあたえ、日本の進路と国民生活に、とり返しのつかぬ深刻な悪影響を及ぼすことは必定である。
 
政治学者の山口二郎氏(北海道大教授)は、民主党の「勝ち方を見ていると、民主党政権について様々な不安が湧いてくる」と、次のように警告している。
 
「最大の疑問は、民主党の議員が、国民が1票に託した思いを的確に理解しているかどうかである。国民は、自民党を罰するために民主党に投票したのであって、民主党に全面的な支持をしたのではない。その判断の根底には…過去数年の改革路線に対する否定的評価が存在している。
 
 親の経済的事情で学業を断念した若者の無念。介護に疲れて親を殺すことまで考える人の絶望。まじめに働いてきたにもかかわらず職を奪われた人の怒りと不安。自民党政権時代に人間の尊厳を無視して顧みない社会が現れたことへの怒りが、責任などという言葉を平気で使う恥知らずの自民党を完膚無きまでにうちのめしたのである。民主党の議員は、自分が誰を代表するのか、政治活動を始めるに当たって深く胸に刻むべきである。
 
 もし民主党政権が国民の窮状を救うことができなければ、国民はたちまち民主党に幻滅するであろう。そうなれば、今回の選挙に表れた国民の不満や怒りは、政党政治そのものへの拒絶に向かうであろう」。「政権交代という好機を逸すれば、日本の民主政治はたちまちもっと大きな危機に陥ることを、民主党は銘記すべきである」(朝日新聞 9月3日 朝刊)。

■ 民・社・国三党連立政権とその政策

 今回の総選挙では、圧倒的多数の国民の、自公政権にたいする不満、怒りを背景に、ゆるやかだが、かつてなく広範な反自民、半自公政権の勢力の、結集がみられた。
 
 政党では、民主党、社民党、国民新党その他の保守ないし中間的な政党の間に、選挙協力などを含め、反自民のゆるやかな共同戦線が形成された。これらの諸政党とは立場を異にする日本共産党も、「自公政権を退場させよう」と、自民、自公政権に攻撃の主力をおいた。
 
 労働者階級の大衆組織も、直接、間接に、この共同戦線に加わった。労働組合では、連合は無論のこと、全労連も、自民、自公政権に攻撃を集中し、「選挙の結果を歓迎する」という談話を出した。
 
 直接、間接に、この共同戦線の形成に重要な役割を果たし、その一翼を担った社民党、共産党の獲得議席は、現状維持にとどまったが、自民大敗、民主圧勝の背景に、この反自民の共同戦線の形成があったことはまちがいない。
 
 したがって、民主党単独政権ではなく、民主、社民などの連立政権が樹立されたことは、自然なことであったと言えよう。
 
 総選挙を協力してたたかった民主党、社民党、国民新党は、9月9日、三党による連立政権を樹立することで合意した。
 
 その合意文書は、こう述べている(『朝日』9月10日朝刊)。
 
「小泉内閣が主導した競争至上主義の経済政策をはじめとした相次ぐ自公政権の失政によって、国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティネットはほころびを露呈している。
 
 国民からの負託は、税金のムダづかいを一掃し、国民生活を支援することを通じ、我が国の経済社会の安定と成長を促す政策の実施にある。
 
 連立政権は、家計に対する支援を最重点と位置づけ、国民の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげる。また中小企業、農業など地域を支える経済基盤を強化し、年金・医療・介護など社会保障制度や雇用制度を信頼できる、持続可能な制度へと組み替えていく。さらに地球温暖化対策として、低炭素社会構築のための社会制度の改革、新産業の育成等を進め、雇用の確保を図る。こうした施策を展開することによって、日本経済を内需主導の経済へと転換を図り、安定した経済成長を実現し、国民生活の立て直しを図っていく」。

 
 そして、次のような10項目の共通政策の柱をあげ、その実施に全力を傾注していく、としている。

  1. 速やかなインフルエンザ対策、災害対策、緊急雇用対策
  2. 消費税率の据え置き
  3. 郵政事業の抜本的見直し
  4. 子育て、仕事と家庭の両立への支援
  5. 年金・医療・介護など社会保障制度の充実
  6. 雇用対策の強化?労働者派遣法の抜本改正
  7. 地域の活性化
  8. 地球温暖化対策の推進
  9. 自立した外交で、世界に貢献
  10. 憲法

 ここで、各項目について詳細に検討することはできないが、これらの政策が実行されれば、国民生活、とりわけ労働者、勤労者の生活と権利は、大きく改善されることになろう。
 
 たとえば第4項目では「安心して子どもを産み、育て、さらに仕事と家庭を両立させることができる環境を整備する」として、出産の経済的負担の軽減、「子ども手当(仮称)」の創設、保育所の増設など。さらに、2009年度に廃止された「生活保護の母子加算の復活」、高校教育の「実質無償化」などがあげられている。
 
 第5項目では、「一元的で公平な年金制度の確立」、「後期高齢者医療制度の廃止」等。
 
 第6項目では、「日雇い派遣」「スポット派遣」の禁止、製造業派遣の原則的禁止。雇用保険の全労働者への適用。最低賃金の引上げ(「全国最低賃金」を、社民党は時給1000円、民主党も1000円を目指すとしている)、男・女、正規・非正規間の「均等待遇」の実現等。
 
 第7項目では、「地方」への権限の大幅移譲。販売農業者に対し、「戸別所得補償制度」の実施。中小企業に対する支援強化等。
 
 第9項目では、社民党の要求によるとされる「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方」を見直す等。
 
 第10項目では、憲法の「平和主義」、「国民主権」、「基本的人権の尊重」の三原則の遵守(じゅんしゅ)を確認し、憲法の保障する諸権利の実現を第一とし、国民の生活再建に全力を挙げる、としている。
 
 これらの合意事項、共通政策が、新政権の手によって実現されれば、勤労国民の生活と権利は、大幅に改善されることになろう。
 
 だが、その実現には、きわめて大きな抵抗が予想される。

■ 新政権を支える共同戦線の再結集を

 新政権の与党の議席は、衆議院・参議院とも、圧倒的多数である。むろん、半世紀以上にわたって、政治権力を独占していた自民党の力、抵抗は軽視できないが、議会内の、いわゆる院内闘争は、さほど困難ではないであろう。
 
 問題は、国会の外でのたたかい、院外闘争である。
 
 日本経済の中枢を支配し、経済権力をがっちり握っている財界、経済界などと呼ばれる独占資本家階級の力は、強大である。彼らは、政治献金や各種の選挙での応援などによって自民党政権を支え、自民党とその政権を通じて、資本の利益をはかり、資本の欲する政策を、実現してきた。
 
 だが、自民党が政権の座を追われたことによって、それが出来なくなった。しかも、さきに見たように、民主党中心の連立政権の政策は独占資本の利害に深く切りこみ何らかの譲歩を迫ることなしには、実現できないものである。
 
 さらに、憲法の平和的・民主主義的条項の空洞化を、自民と共におし進めてきた財界にとっては、新連立政権の、日本国憲法の「平和主義」、「国民主権」、「基本的人権の尊重」の三原則の遵守も、認めがたいことであろう。
 
 それ故、独占資本、財界は、新連立政権とその中心を担う民主党にたいして、強く、激しく反発し、抵抗するであろう。
 
 そのような反発は、すでに、新政権の発足前から行われている。
 
 一例をあげると、民主党がマニフェストに盛り込んだ「二酸化炭素(CO2)等排出量は2020年までに90年比で25%削減」の公約は、国連をはじめ国際的にも高い評価をうけているが、日本の財界は経済活動に悪影響を及ぼす、と厳しく批判している。
 
 また、長年にわたって、自民党と共に、政治支配の一翼を担ってきた官僚の強い抵抗も予想される。右翼的なマスメディアなどからの攻撃も軽視できない。
 
 国会の外における、新連立政権にたいするこのような抵抗や攻撃にたいしては、自公政権を崩壊させ、政権交替によって新たな政権を成立させるために活動したたかった、すべての勢力が、再結集して立ち向かうことが、不可欠であろう。
 
 総選挙闘争において事実上形成された、反自民、反自公政権の共同戦線は、見事にその役割を果たしたが、財界などからの新政権への不当な攻撃に対抗し、さらには、新政権が国民の期待を裏切らないよう見守る新たな共同戦線の形成が強く望まれる。

■ 新政権の課題

 文部省が、1947年に発行し、全国の中学生が1年生の教科書として学習した「あたらしい憲法のはなし」には、こう書かれている。
「国をどういうふうに治め、国の仕事をどういうふうにやってゆくかということをきめた、いちばん根本になっている規則が憲法です。もしみなさんの家の柱がなくなったとしたらどうでしょう。家はたちまちたおれてしまうでしょう。いま国を家にたとえると、ちょうど柱にあたるものが憲法です。もし憲法がなければ、国の中におおぜいの人がいても、どうして国を治めてゆくかということがわかりません。それでどこの国でも、憲法をいちばん大事な規則として、これをたいせつに守ってゆくのです。国でいちばん大事な規則は、いいかえれば、いちばん高い位にある規則ですから、これを国の『最高法規』というのです」。
 
 しかし、自民党政権は、子どもでも知っている政治の基本をふみにじり、長年にわたって、新憲法の1番大事な平和的・民主主義的条項を、いわゆる解釈改憲によって、空洞化してきた。自民党は、国の「最高法規」である憲法をないがしろにし、憲法違反の政治を行ってきた。
 
 そして、自民党は、05年8月には、憲法九条二項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」を削除し、そのかわりに「自衛軍を保持する」と明記する、などの新憲法草案を発表し、これまでの解釈改憲の積み重ねのうえに、憲法の条文そのものの「改正」、明文憲法に乗り出すことを明らかにした。
 
 さらに、05年9月の総選挙で圧勝した自民党は、国会召集日の翌9月22日、公明党、民主党の賛成で、衆議院に、改憲の手続き法案づくりのための「日本国憲法に関する調査特別委員会」を設置した。
 
 国会内では、九条改憲に立ち向かう勢力は圧倒的に小さく、当時、私は「改憲阻止の闘いをめぐる状況は、国会の力関係だけでなく、日本経団連をはじめ財界、保守勢力が、総力をあげて改憲攻撃を強めており、かつてなく厳しい。しかし、労働組合も、自治労、日教組、私鉄総連、全国一般、国公連合などをはじめ、闘う姿勢を強めつつある。民衆の危機意識も、次第に高まりつつあり、市民運動も盛り上がりはじめている」(本誌 05年11月号)と書いた。
 
 改憲阻止闘争の厳しさは、今も同じであるが、たたかいの展望に明るいきざしが見え始めたことは、まちがいない。
 
 総選挙における自民党大敗、新連立政権の共通政策に憲法の「平和主義」遵守が盛り込まれるなど、改憲をめぐる政治状況に有利な変化が生まれている。
 
 さらに、九条改憲に関する世論にも、同様の変化が生じている。朝日新聞社が、昨年4月に行った世論調査では「九条改正」反対が66%、賛成が23%で、一昨年の反対49%、賛成33%に比べて、賛否の差が拡大した。反対は、民主支持層で71%、自民支持層でも57%にのぼった(『朝日』08年5月3日朝刊)。
 
 憲法の、第二五条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」、第二六条「教育を受ける権利」、第二七条「勤労の権利」などの基本的人権も、とりわけ、この10年来の新自由主義に立つ自民党政権によって空洞化されてきた。
 
 同じ資本主義国である西欧、とりわけ北欧の福祉国家に比べてみると、日本では、労働者、勤労者に対して、これらの基本的人権の実現が、いかに立ち遅れているかが、はっきりとわかる。
 
 しかし、いまや、新自由主義的、小泉構造改革は厳しく批判され、自民党政権は退場し、憲法の「基本的人権の尊重」を、その共通政策にうたった新連立政権が生まれた。
 
「平和国家」、「福祉国家」の建設が、この新連立政権の最も重要な課題であると確信する。
 
 そして、この課題を達成するには、新連立政権の一翼を担うであろう社会民主党の責任はきわめて重く、その奮闘が強く期待される。
 (9月15日)  
 

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