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●2007年10月号
■ 参院選後の政治動向と課題を聞く
  ――地域に根ざした日常活動から自己改革を
  社民党政調会長代理 辻元清美
 

■ 問われる社民党のリニューアル

伊藤修編集長 今日はお時間を割いていただきありがとうございます。早速ですが、参議院選挙の結果をどう見るのかについて社民党の総括についてお話ください。

辻元 今回の参議院選では与野党逆転が実現しましたが、社民党としては議席を減らしていますから、ひじょうに厳しい選挙でした。今後は社民党および社民党的空気を自分たちでリニューアルしない限り、先細りになると私は考えています。
 
 時代は変わっています。選挙も、今までのやり方では通用しなくなっています。労働組合はほとんど民主党支持ですし、社民支持のところも組織率が落ちているのは同じですし、新しい支持母体をどう作っていくかというところで立ち止まっている状況もあります。
 
 私はNGO活動を続けてきましたが、旧来の市民運動もまた違って来ています。スケジュール消化型、スローガン闘争では心に響かないと思います。それぞれの地域に根ざした活動をどれだけ組織するのかが求められていて、それをしない限り展望は開かれないと思っています。
 
 社民党は、参議院選挙でも護憲を訴えましたが、集会をし、デモをしても、「またやってるわ!」としか受け止められなくなっています。それで、私は住んでいる大阪府高槻市で「護憲の町内会を作ろう!」とやっています。自分の住んでいる町で、5人でも10人でも集まって憲法の学習会をしようということです。草の根の取り組みをしないと、政治勢力としても大きくなれないし、生き残れない。そういう危機感を持っています。

■与野党逆転で高まる社民党の価値

伊藤 次に、参議院における与野党逆転という結果を受けての政治情勢をどうお考えでしょうか。

辻元 与野党逆転をどう見るかということでは、吉にも凶にもでると思います。吉にでれば、非自公政権ができ、弱いものを切り捨て、戦争への道をまっしぐらに歩んでいたところに歯止めがかけられる。しかし、凶にでれば、2つの大きな政党で何でもできる政治になってしまうわけです。「民主党が案を出してください。自公はそれを取り入れながらやっていきます」と、あらゆる政策が大政翼賛会的になってしまうことが考えられます。そうすると議論も民主主義もなくなってしまうと危惧しています。
 
 テレビ討論を想定してください。自民党と民主党の代表と司会者だけで討論して、日本の政治が良くなりますか。そこにうちの福島党首とか、共産党とか、国民新党、新党日本とかがいるから、いろいろと議論になり、違う意見も俎上に載るから好いんです。二大政党と言われているけれど、はっきりとした二大政党なのはアメリカだけで、他の国は連立政権です。日本でもどこの政党も単一では政権を取れないわけですから、よりマシな連立政権をつくる。どういう組み合わせがよりマシか、成熟した議論がないと、政治は変えられないと思っています。かつてのように、自民党政治に「反対」ということで、自らの政治的意義を見出していた時代は終わり、否が応でも、どういう連立政権がマシか考えざるを得ないわけです。
 
 マスコミは「二大政党制になればよくなる」、「二大政党制が世界の流れ」とキャンペーンを張っていますが、二大政党になると似通った政策になりがちですから、アメリカがイラク戦争に突っ込んで行ったときのようになります。日本は、価値観の違う政党がぶつかり合う、いくつかの政党が連立することで、極端な方向に暴走することがないようにする必要があります。
 
 参院選で民主党は躍進しましたが、一党では過半数に達せず、社民党と国民新党を足して過半数なんです。ということは、社民党は議席を減らしたとは言え、キャスティングボートとしての発言力は増したと思います。
 
 臨時国会で早速それが始まっています。民主党は、年金保険料流用禁止法案を出すから、社民党と国民新党に賛成してくれと言ってきています。国民新党は、郵政民営化凍結法案に賛成して欲しいと言っています。社民党は憲法審査会を立ち上げるのを反対して欲しいとか、集団的自衛権の行使は、野党が協力して反対していきましょうとか提案しています。それぞれに意見を出して、もみながら野党共闘をしていく素地は、参議院の中ではできつつあるのではないかと思います。
 
 民主党に対しても批判したいことはいっぱいありますが、批判しすぎて民主党が自民党の方に行ってしまったら元も子もない。社民党は小さな政党ですが、暴走国会にならないようにする意味での、大きな政党の歯止めとしての社民党の価値は高まっていると思います。

■ 参議院選挙で爆発した構造改革への批判

伊藤 安倍内閣への不信感は、小泉内閣後半の政策への批判という一面があるにも関わらず、小泉の再登板が言われる。構造改革への批判もそう強くはない。そこら辺りを辻元さんはどう受け止めておられますか。

辻元 小泉さんの人気はそんなに高くないと思います。郵政民営化解散総選挙で圧勝したように見えますが、票でいうと五分五分でした。でも小選挙区比例代表並立制という選挙制度だから、1人しか当選しないわけで、ごっそり持っていってしまったわけです。私の選挙区で言えば、自民党が8万3000票、私が6万8000票、民主党が5万2000票、共産党が1万2000票でした。非自公を足せば圧倒的に多いわけで、そういう現象は日本中にあったわけです。小泉という個性的なキャラクターをして、「刺客」などというパフォーマンスをしても、全体の票の分析をすれば、せめぎあっていた。小泉さんが進めたアメリカ一辺倒の外交政策、靖国参拝への批判、アジアをどうするんだという批判がある。それとアメリカ型の経済、市場原理至上主義への不安感が、あれだけのキャンペーンをしてもあったということではないでしょうか。それが参議院選挙で爆発したのだと思います。
 
 構造改革についていえば、「市場の論理一辺倒ではあかんで」という声も強い。郵政解散のときも、その後もそうだと思っています。例えば規制緩和でいい緩和と悪い緩和がある。日本は規制でがんじがらめになっているところもありますが、いい規制は残さなあかんと思っています。例えば労働法制とか、安全安心のタクシーなんかは象徴的ですけれども、人の命に関わる規制はきちんとかけないといけない。その規制をもう一度精査して仕分けしていくことが今求められているのではないかと思っています。

■ 臨時国会の課題、焦点について

伊藤 政策課題も出していただきましたが、臨時国会の課題では、一つがテロ対策特措法の延長問題ですが、これについてお話しください。

辻元 延長反対ですよ。野党が、反対で結束するように働きかけていきたいと思っています。

伊藤 小沢さんが「国連のお墨付きがあれば」と言っていますが、そこが利用されることも危惧されますが…。

辻元 「国連の枠組みであれば、自衛隊を出す」というのを、(特措法ではなく)一般法で作ろうという方向に持っていかれないようにしないといけない。私たちは「国連の決議があろうがなかろうが、非軍事・民生以外はダメ」という立場、自衛隊を海外に派兵するのはダメという立場です。憲法九条がある以上当然でしょう。
 
 自公が「恒久法を作りましょう。ついては民主党さん、案を出してください」と持っていかれないように、民主党の中には、自民党に近い人もいますから、警戒していかないといけないと思っています。

伊藤 時間もないので年金の問題に移りますが、長期的問題も含めてお願いします。

辻元 宙に浮いた年金問題は、しっかりしたルールをつくって対処しなくちゃいけないと思っています。年金ではまだ出てきていない問題もあると思うので、逆転した参議院での野党共闘で、国政調査権を使って、真相究明していくことが必要です。
 
 それから年金制度そのものが破綻しているということがあります。若者は二人に一人しか加入していない。制度そのものを見直していかないと、信頼は回復できません。基礎的な部分は全額税金方式しかないと思いますし、その方向での議論を開始するのも大事だと思っています。また現在、民主党と社民党と国民新党の若手議員の有志で「格差解消の会」を作りまして、あらゆる格差問題を議論していこうと活動を開始しています。

伊藤 一昨年衆議院の公聴会で、社民党から意見陳述を求められて発言しましたが、私の提案は最低年金補償額が少し多いだけで、考え方は社民党と同じです。中公新書『日本の経済』にまとめたんですが、ネットをみると賛否両論飛び交っています。

辻元 それ、ぜひ見せてください。勉強になりますんで。

伊藤 分かりました。あと、労働法制の中でも最低賃金制が、格差問題とも絡んで、たいへん重要だと思いますが……。

辻元 労働法制は、労働者は弱いから、如何に守るかという立場で作られていたんですが、それが、オリックスの宮内氏やキャノンの御手洗氏が先頭に立って経営者が如何にしたら使いやすいか、いつでも首を切れるようにするかという議論になってしまっていたんですよ。これを本来の労働法制に戻した議論をしないといけないと思います。
 
 欧州では最低賃金が1200円とか1300円というのに、日本は先進国の中では極端に低い。野党が言う最低1000円の線できちんと保障していくようにしないといけないと思います。中小、とくに地方では苦しいところもありますから、それは別の手当てをし、最低賃金は1000円以上でと野党は足並みを揃えています。

伊藤 経済学界では、これまで安いから雇われていた人たちまでが排除され、失業が増えると言う人たちと、日本は低すぎるから上げるべきだというのと真っ二つですが、市場原理主義は侮れず、これから出てきます。

辻元 これは人を殺してもええんかという話です。労働力のダンピング競争になっているわけで、人間のダンピングをしてまで国際競争力を担保したいのかということです。雇用流動化でみんなが働けるようにしないととか、雇用の多様化というのは、いつの時代にも言われることです。本来人間というのは、食べていくだけではなくて、尊厳もあるわけです。それなのに、今は儲かっている大企業の方が偽装請負とかやって、さらに利潤を上げている。人間のダンピング競争でいいのかという視点で問題にすることです。
 
 しかし、労働力のダンピング競争をやっている企業が生き残れるかというと、そうでもない。ヨーロッパでは、社会的責任ファンドとかが重視されていて、ダンピングしている企業の株は買わないとか、がんばって非正規の待遇改善をしている企業の株を買おうとか、そういう社会的バックアップもあります。これは、単なる経済の問題ではなくて、私たちがどういう社会にしたいのか、社会運動の課題でもありますから、社会的責任も含めて、提案が出来たらいいなと思っています。

伊藤 大賛成です。企業の倒産は経営者の判断ミスが大部分で「人件費の圧迫で」という事例はほとんどないと思います。最低賃金の時給を2500円にするといえば、「雇用が減るぞ」というのも分かりますが、1000円にするぐらいではレベルが違うだろうという話ですよね。

辻元 企業がこれだけ儲けておいてひどい話ですよね。ドラキュラのように血を吸って、現代版の女工哀史ですよ。儲けをストローで吸い上げて、上に溜まるようにしたのが小泉構造改革だったんで、見直さなあかんと思いますよ。
 
 教育格差も広がってきている。経済的に苦しい家の子は学校も十分行けない。それでいいのかということです。

■ 社民党の独自性をどう出すのか

伊藤 最初の問題とも関連しますが、社民党としての独自性をどのように出していくのか、地力を強化していくのかを補足的にお話ください。

辻元 大きい政党の暴走の歯止めとしての意義が1つです。「大きい政党だけでええんか」ということを提示していきたい。社民党が一定の力を持っていくことは、政治を分かりやすくしたり、「怖いな」と思うことの歯止め役として働けるんじゃないかと思います。例えば、刺身でマグロと鯛が出されて「どっちが好きや?」と言われても難しいでしょう。しかしどっちかにだけワサビがついていたら、それを選ぶでしょう。社民党というのは、政界のワサビやと思うんです。殺菌効果もあるわけで、そうなりたいと思っているわけです。

伊藤 出来たら、山盛りのワサビになってください。

辻元 そうですね。そのためには日常活動が大事やと思うんです。選挙のときだけやってもダメです。どっかの集会で、集まって、帰りに一杯やって議論していたら、やっている気になるわけですが、そういうんじゃなくて、地域に根ざしてやっていくことが必要です。障害者の問題もあれば、環境の問題もあるわけです。社民党は男性が多いわけですが、自分の家の近所では何もしていない人が多い。1万人集めるんだったら、どこか大きなホール1カ所に集めるんではなくて、地元の公民館に10人ずつ1000カ所集まるほうが強い。10人の絆というのは強いでしょう。ですから私は、それを信じて大阪でコツコツ活動をしています。
 
 なんぼ立派な基調報告をしても、それだけでは説得力を持たなくなっていると思うんです。もちろん大きな集会にも行きますよ。だけど、自分が自分の地域で広げていく、そんな活動が必要かなと思っているんです。

伊藤 全国各地の報告を聞いても、選挙のポスター貼りで精一杯だったとか、いい話はありません。それは社民党だけでなく、どの政党も若い世代は集まっていない。そのなかで、小さな単位でへばりついていこうということですね。

辻元 そうです。局地戦でやっていこうということです。ベトナムのゲリラはそうだったわけです。大阪も党の活動はドン底なんですが、今回20歳代、30歳代の3人の議員が誕生したんです。私たちはその選挙活動を一所懸命やるわけです。そうすると、周りに若い人たちが集まってくる。そこに希望を見出したいなと思うわけです。
 
 それから、私の選挙区では個人ポスターを貼ってくださる家を確保する運動を進めています。党員や支持者が手分けして回って、今現在300カ所ですが、年内に1000カ所にしようということでやっています。
 
 日常活動しないと勝たれへん。自民党さんも、公明党さんも日常活動してますもん。盆踊りなんか、1日に8カ所くらい回りますよ。それせんと勝たれへんもん。自分から実践しなくてはと試行錯誤してます。

■ 現場で一人ひとりが主役で頑張ろう

伊藤 最後に、本誌の読者に一言ありましたらお願いします。

辻元 「辻元さん頑張ってや」とよく言われるんですが、「嫌や、あんたも一緒に頑張ってや」と言っています。政治活動というのは、人に依存せずに自分がどれだけやれるかということだと思うんです。方針を待つんではなく、自分から行動する。自分が主役だとの思いでそれぞれの現場で一緒に頑張っていきたいと思っています。
 
 私は、何もない大阪でやってきました。4月の自治体選では成果あったけど、参院選はぼろ負けで落ち込んでしもうた。今こうしてお話してんのは自分を励ましていることでもあるんです。
 
 政治に関わるようになってから、いろいろありましたし、崖を、爪を立ててよじ登っているような心境なんですが、憲法変えられたら嫌やし、やらないかんと自分を励ましてやっています。

伊藤 伊藤 お忙しいところをありがとうございました。
 

<9月5日>  

■追記(辻元清美)

 9月11日。国会の焦点がテロ特措法の延長になり、同時多発テロと戦争を考える集会に参加。その席で私は、「昨日の安倍総理の所信表明演説は、内容もなければ、気力も感じられない。辞任演説みたいやった」と話した。
 
 翌12日。この日の本会議は、所信表明演説に対する代表質問が行われるはずだった。しかし開会10分前のベルが鳴らない。「総理が辞意」の報が届き、本会議は流会。
 
 午後2時から、安倍さんの「涙目」辞意表明を聞いた。
 
要約すると、
クテロとの戦いを継続するには、自分ではダメだ。
ケ辞める引き金は、小沢さんに党首会談を断られたこと、の2点。
 
 安倍さんは、「国民の暮らし」について、ついに言及しなかった。格差も、年金も、雇用も。そして、自分が総理では政策は前に進められないとは言ったが、いわゆる「安倍カラー」的なものは否定していない。むしろ、自分のあげた成果を誇るようなニュアンスを、私は感じた。
 
 私たちは、安倍さんが残したものを注意深く検証する必要がある。改悪された教育基本法。海外での活動が主たる任務となった自衛隊と、昇格した防衛省。日米の軍事一体化を進める米軍再編。そして3年後に可能となる改憲のための国民投票。先の通常国会だけで17回という、度重なる強行採決で成立させられたこうした法律が、実行されていくのはこれからだ。
 
「一度も力を発揮することなく」と報じた韓国メディア。「何もやらなかった、零点」と評した識者。「周囲が悪かった」「ボンボン」「無責任」「職責放棄」……安倍さんを非難する声はあちこちから聞こえる。確かに安倍さんの政治手法は稚拙だ。しかし、これからの日本の骨格を決める法律を、1年足らずの間にババババッと立て続けに成立させたことは紛れもない事実。
 
 モヤが晴れないような、気持ち悪さがとれない。だから、安倍「総理」のやってきたことをなめたら、アカン。
 
 次の総理大臣が誰になろうとも、やっぱりここは解散総選挙で、政権交代を目指したい。安倍さんが執念を燃やして日本の国の形を変えようと成立させた悪法の軌道修正をしていきたい。
 
 安倍総理を嗤うことは簡単だけれど、今の日本の深刻な状況は変わらないのだ。

<9月12日 安倍退陣の日に>  

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