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●特集/日本の進路を左右する参院選 (2004年4月号)
■ 食の危機と偽装の背景
   ──食の自給と安全をめざして
   (福島県中央生活協同組合専務理事 佐藤孝之)

 
昨年、農水省が「消費者の90%が食料供給に不安を持ち、85%が食料自給率を大幅に引き上げるべき」との意識調査結果を報告した。この間の牛海綿状脳症(BSE)の国内発生や、あいつぐ偽装事件等により食への安心感が失われたことを示し、危険やごまかしに輸入農畜産物が関わっていることの反映といえる。
 
食の不安が、食料自給率の低下に関連する以上「食の自給と安全・安心は一体」のものである。同時に、食の危険と偽装が社会の体質や経営者のモラルの問題でなく、今日の政治と社会体制に根源があることを認識しなければならない。
 
一、鳥インフルエンザの「温床」
 
連日報道されている鳥インフルエンザは、京都・浅田農産から二次感染し深刻な事態に至っている。発生の感染源は、専門家が解明するであろうが、鳥インフルエンザに鶏が感染し、発病し、短時間で何万羽が死んでいく事態は現在の養鶏業のあり方に大きな要因がある。
 
今回の鳥インフルエンザは79年ぶりの流行であり、00年春には、口蹄疫(ウイルス性)が92年ぶりに牛・豚に発生した。韓国では、豚コレラによって10万頭も死亡している。
 
この状況を生協の畜産生産者交流会では「ウイルスの逆襲が始まった。これほど抗生物質、殺虫剤を使って、あらゆる有用微生物も死滅させた結果である」と提起した。
 
問題は、ウイルスの「運び屋」ではなく、免疫力が低下し容易に感染する「鶏・豚・牛」の存在である。今日の養鶏業、広くは畜産の現状を見るならば何が発生しても不思議がない位、不健康が万延している。
 
 
1、過密飼育と抗生物質
私たちの生産者は、鳥インフルエンザの大量発生の温床は、大量過密飼育、抗生物質の大量投与、輸入配合飼料等によって薬漬け、肥満、不健康で免疫力の低下した鶏作りにある、と述べている。
ブロイラーは、坪当たり60羽〜80羽の過密飼育(生協の場合20羽〜30羽)で運動不足にし、飼育期間を短縮し、養鶏コストの60%を占める飼料代の節約、施設の回転率アップをはかる。
 
抗生物質は、細菌には有効であるが、ウイルスには全く無効であるにもかかわらず、配給飼料に「病気予防と肥育効果」のためにと混入されている。その量は、病気時の投与と合わせ全国での年間使用量は1000トンを越えた。病院での医療の2倍にもなっている。なぜこんなに使われるのか。
 
順天堂大学平松教授は「抗生物質は日本の産業の重要な商品だから、減らすと社会がつぶれる。抗生物質が効くためには現在の使用量を減らすこと」(03年5月、岐阜新聞)と述べている。
 
なお、この大量の抗生物質はMRSAなどの耐性菌を生み、院内感染の原因となり、年間2万人余が死亡している。
 
こうした薬漬けの不健康な畜産を裏付けるような「と畜場での廃棄頭数」(表1)がある。皮ふ病と、内臓疾患、ガンなどの病気等により食肉として一部または全部が適さなかった頭数である。鶏の場合は、小動物のため養鶏場で死亡する場合が多く「と畜場の数字」には出てこない。
 
 
2、「価格破壊」で採算割れ
浅田農産では鶏が大量に発病・死亡した以後も出荷するなど、消費者として許せないことである。だが、「信じられない行動」に走った背景を考えれば、彼らも自殺と倒産に追いつめられた被害者である。
 
この間、生卵価格は「価格破壊」が進み、国際価格より低くなった。スーパーなど量販店が「安ければなんでも良い」「客寄せ商品としての卵を原価割れで販売」し、これに対応する大手養鶏場は、大規模化で増羽、増羽で価格を下げた。そのうえ、本年に入って飼料代が2回も値上げされ、生卵価格が採算ライン1s170円を大きく割り、利益が出ない生産者価格となり、余剰卵をどこでも抱えていた。「半年前の余剰卵で中毒症状」(京都山城)事件も同じ背景である。
 
そこへ鳥インフルエンザで需要も後退し、問題が発生すれば即「倒産」の状態であった。現に福島県内では、この2月に大手養鶏場が自己破産し、従業員36人が全員解雇となった。鶏の異常や古い卵に目をつぶりたくなる状況であり、経営者の「モラル」だけでは片づけることはできない。私たちの卵の生産者は「そういう気持になる事は痛いほどわかりますが、しかし絶対に隠してはいけないことがあります。ウチの卵だと『子どもにアトピーが出ないです』という組合員の顔を思うとゴマかせません」と語っている。
 
 
二、BSEは生物界の脅威・・背景に工業畜産
 
米国BSE問題は、吉野家を始めとする外食産業がいかに低価格の輸入肉を使用しているかを明らかにした。その輸入許可条件となっている「全頭検査」を考えてみる。
 
国内のBSE発生は、2月まで11頭を数える。汚染肉骨粉量からすれば、潜在的感染牛は発生の10倍、20倍と予想できる。にもかかわらず、国内牛は「全頭検査」だから安全と農水省は公表している。しかし現在の検査では、BSEの異常プリオンが高濃度でないと発見は難しい。少量の場合は判定されず、食肉牛として流通する。高齢牛やある症状の牛はと畜場に来ることを自主規制する例もある。
 
また、BSEは感染から発病まで2年〜8年間もかかり、感染源の特定は難しく、発病したときは、各所で感染していた結果になる。
 
しかも、BSEは羊から牛、牛から人間へと種の壁を越えて感染し、かつ治療方法はなく確実に死に至る。異常プリオン自体の特異性や種を越えての感染は、これまでの人類史上になく生物界の脅威といえる。なぜこうした変化が発生したのか。人間、動物界の遺伝子に変化が生じたのか。その要因は不明であるが、食の安全が生命の問題になっていることは確かである。
 
BSE感染源とされる肉骨粉について、96年にWHO(世界保健機関)が禁止を勧告したにもかかわらず放置され、00年12月に「肉骨粉を反すう動物の飼料にしないように」指導しただけであり、法的に全面禁止とはなっていない。配給飼料企業への保護としかいいようがない。
 
飼料への肉骨粉の使用は、魚粉に比べて価格が3分の1近くも安く、また、牛の一乳期の量を倍増させ、かつ乳脂肪分も3.5%を越える。しかし、牛の寿命は短縮される。
 
牛は、本来草食動物で草を反すう胃でたんぱく質に変える。しかし、肉骨粉を始め、濃厚飼料、そして抗生物質、抗菌剤が飼料化されることで、胃の中の微生物は死滅し「肥だめ」のような胃になっている。
 
BSE発生の背景には、牛の生理を無視した「基準、コスト、生産性」を優先した「工業畜産」がある。
 
 
三、輸入食材の増加は「内外価格差」
 
食の危険と不安、そして様々な「偽装」の要因に輸入農畜産物がある。それは、年々増加傾向にある(表2)。
 
増加の原動力は、国際価格に比べて国内価格が高いこと、すなわち「内外価格差」である。
 
 
1、危険と不安の素材
輸入農畜産物の増大は、様々な危険と不安の増加となる。@米国BSEに見られるように、家畜の病気の不安を始め、だれがどのように作っているか、どんな農薬、肥料が使われているか知ることができない。Aポストハーベスト(保管・輸送のため収穫後の農薬散布)では食卓まで残留する殺虫剤、防カビ剤が散布されている。小麦、大豆、柑橘類。B遺伝子組み換え作物(GM)の問題。これは、食の面にとどまらず、人間の遺伝子への変化、動植物全体の生態系の問題があり、未知の部分が現状では多すぎる。したがって、研究室内のテーマにもかかわらず、企業の市場独占と利益のために推進されている。
 
 
2、生鮮食材の増加が急速
(1)従来は、端境期、不況時に限られていた野菜、果物、乳製品が増加している。その理由に、輸送能力の向上がある。特殊コンテナ、大型貨物航空機、冷蔵・冷凍技術の進歩など。重要なのは、大型の輸送能力を使い、販売力を持つ大型スーパー、外食産業が生鮮部門に参入したことである。これには、外食産業が事業として全国展開できるようになった社会生活基盤における変化があった。勤労者の労働時間の延長、交替制、女性パート比率のアップ、少子家族構成等で食の形態が変わってきたことである。
 
(2)生鮮メジャーといわれる大手商社、量販店は、東南アジア、中国の広大な土地と労働力を使い、日本への輸出を目的とした栽培を進めている。日本人好みの長ネギ、ホウレン草、ゴボウなどを、日本から種、肥料、農薬を持ち込み技術指導して生産し、「買い取る」システムである。「内外価格差」、低い生産価格により大きな利益を得ている。国内市場では、「価格破壊」を加速させ、小売店や流通業を廃業に追い込むことになった。
 
(3)2000年に輸入したおもな農畜産を、生産に必要な海外作付面積に試算すると1200万haになり、国内耕地面積483万haの約2.5倍に相当する(図1)。
実は、『農業白書』でも「輸入農産物の増大は、土地の輸入であり、海外に広がる日本の農地」と明記している。『白書』で「日本の農地」と述べることは、その権益を守ることを正当化することに結びつかないだろうか。
 
 
四、危険と偽装は日常的
 
「国内産」といえども危険や「偽装」がないことはない。輸入農産物が、通称、「成田空港市場」で国産のアスパラや泥付き里芋に変る。前段で「半年前の余剰卵」事件にふれたが、スーパー店では卵表示・「パック日」が多い(私たちの卵は『産卵日』)。同じように、搾乳日が不明の牛乳、と畜日の分からない豚肉など、生産と消費の差を隠す手法といえる。
 
ハム、ウィンナー、魚の練物など他の素材での増量は表示され「合法」かも知れない。しかし、加水による「水増し」は表示する必要がない。練物、ハム、とうふ、酒、ワカメ、調味料など、ほぼ全商品に至る。これも広い意味での偽装であり、「価格破壊」の進行で一層加速している。
 
加工品への合成化学物質の添加は限りない。青酸カリと同等の毒性を持つ「亜硝酸ナトリウム」が発色剤として、ハム、ウィンナー、魚卵に使用されている。他の加工品についても同様に、着色料、防カビ剤、過酸化水素、酸化防止剤、化学調味料等、極めて毒性の高い物質が添加されている。それぞれが発ガン性や催奇形性を持っている。人間にとって大量の化学物質の摂取は「入口はアレルギー性で、出口はガン」と表現されるほど深刻である。
 
なぜこれほどの合成化学物質が加工食品に使用されるのか。それは、水増し増量であり、長期保存のためである。コスト引き下げと大量生産であり、かつ市場の広がりは流通時間の延長となり、擬似的な品質保持や鮮度が求められるためである。
五、「価格破壊」は総資本の意思
食の危険の背景には、「価格破壊」がある。この「価格破壊」を進めた1つに、平成3年から6年にかけて当時の日経連労働問題研究委員会による『労問研報告』がある。その中で繰り返し「内外価格差問題」を取りあげられた。そして食料品を始め多くの生活資料について、国際相場と比較して国内消費価格が高いことが指摘されている。
 
そのうえで「内外価格差」を是正すること、すなわち国内価格を下げることは、生産と流通部門のコストダウン、農畜産、小売業、問屋などの部門より余剰労働力作りと大規模化をめざすものであった。また、セーフガードなどの保護を撤廃し、輸入品目を増やし競争させながらの「価格差是正」だった。日経連(総資本)がめざしたのは、物価値下げ、生活向上の「価格破壊」ではなく、国内での過剰労働力の創出であり、食材を中心とする生活必需品の価格を下げ、勤労者の「平均的生活資料」(労働力の再生産費)・賃金の縮小だった。これにより、総資本の相対的利潤(剰余価値)を大きくする。
 
しかし、「価格破壊」といわれる割には、物価全体の指数は01年ではマイナス0.7%(前年度比)、食料品はマイナス0.6%(同上)にすぎない。他方、労働力の余剰は確実に進んだ。
 
01年の離職失業者379万人のうち、卸売業、小売業、サービス業で122万人と、製造業の54万人を大きく上回った。流通部門の削減が大きいことを現している。
 
もう1つの柱、農畜産部門では、農家戸数は01年307万戸(専業、兼業の合計)と1960年の2分の1に減少。酪農家は、この間輸入自由化と乳価の低下の中で、規模拡大と集約化が強制された。その数は63年42万戸が01年では3万2000戸と10分の1に減少した。他方、1戸当りの平均飼育頭数は、2〜3頭から51頭に増加した。まさに、『労問研』報告の狙い通りに進んだといえる。
 
それでも酪農家の生活の安定と豊かさが増大したならば容認できる。現実は逆である。大規模化の設備代と大量の飼料代で借金が増加した(表3)。この借金の多くが飼料会社からであり、飼料を選ぶことができない。こうした中でのBSE発生である。国内2頭目の感染牛は、01年11月北海道・猿払村の酪農家Aさんの飼育牛だった。Aさんのお母さんは怒りをこめて語った。
 
「国が汚い飼料を仕入れて、業者が儲けてさ。狂牛病が出たら、今度は国の方針だからって私らが苦労して育てた牛を60何頭、感染もしていないのに、無惨に殺すために、勝手にみんな引っ張って行っちゃった。国の権利だからと、私らの了承もなしにさ」(『BSEを乗り越える道』コモンズ社より)。
 
この言葉にすべてが表現されている。必死に頑張って生き残った「10分の1」の酪農家の姿である。
 
 
六、食の安全は健康と暮しを守る
 
消費者にとって食の安全性・安心を求める要求は大切であり、食の自給と一体のことである。また、食の自給を求めることは、減少し続ける農畜水産業を発展させる道である。同時に関連する流通部門、小売業、そして農協、農水省等で働く人々の雇用を守る意味もある。また、農畜水産の復興は過疎問題、地方自治、環境問題を含むものである。
 
食の自給と安全・安心を求めることは、勤労国民の健康と暮しを守る闘いでもある。労働者が労働組合に結集するように、消費者は協同組合に参加して組織的な力を発揮しなければならない。食の自給、安全と安心の改善を積み上げながら、「危険と偽装」を次々と産み出す「この社会の矛盾」を学ばなければならない。「食の不安」がいくら増大しても、不安の背景を明らかにする活動が弱ければ、この社会を考える力は成長しない。

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